あまりにも不思議そうに尋ねる園子ちゃんに笑ってしまう。
「私が知ってもどうしようもないことですから」
「あかん」
「やかん?」
「ちゃうわ。聞いたほうがええ、ってことや」
カゴを足元におろした園子ちゃんの顔は、なぜか真剣だった。とまどう私に園子ちゃんは言った。
「詩織ちゃんには知っていてほしいんや」
「でも……」
まだ躊躇する私に、園子ちゃんは「あのな」と勝手に話をしだす。
「雄ちゃんと穂香ちゃんは一緒にあの店を開いたんや」
「……」
「そりゃ仲のいい兄妹でな、穂香ちゃんのファンのお客さんで昔はすごいにぎわってたんや。雄ちゃんもいつもニコニコしててな、その視線の先にはいつも穂香ちゃんがいたんや」
そう言えば、この間穂香さんの話をしてくれた雄也は見たこともないくらい穏やかな顔だったな……。でも、そのあと、彼は悲しい顔になったんだ。
黙っている私を気にすることなく園子ちゃんは話し続ける。
「でも、八月のある日……ぱたりと穂香ちゃんは店に顔を出さんくなったんや」
「……どうしてですか?」
興味に負けたようでくやしいけれど聞きかえしていた。園子ちゃんは少しだけ私に顔を寄せると、
「失踪した、って噂や」
と、短く言った。
ああ、やはり聞くんじゃなかった。
「初めはな、うちらも楽観視していたんや。すぐに戻ってくる、って思ってた。けどな、時間だけがどんどん過ぎていってしもうてな……。気づけば雄ちゃんの口数は、どんどん減っていってしもうたんや」
「そんなことが……」
「書き置きを残して出ていったらしい。それしか言わない雄ちゃんは、今みたいに無口そのものになってしまった。聞いても穂香ちゃんの話になると貝みたいに口を閉ざしてしまう。だから、誰もそのあとがわからへんのや」
「じゃあ、それ以来穂香さんの姿を見た人はいない、ってことですか?」
静かに尋ねると、園子ちゃんはため息で答えた。
そうだったのか……。ふたりで始めたお店なのに大切なパートナーを失ったってことか。
なんだか雄也の知らない一面を見てしまった。
「助けてあげてほしいんや」
園子ちゃんの声はさっきよりも真剣に聞こえて、思わずその目を見た。
「私が知ってもどうしようもないことですから」
「あかん」
「やかん?」
「ちゃうわ。聞いたほうがええ、ってことや」
カゴを足元におろした園子ちゃんの顔は、なぜか真剣だった。とまどう私に園子ちゃんは言った。
「詩織ちゃんには知っていてほしいんや」
「でも……」
まだ躊躇する私に、園子ちゃんは「あのな」と勝手に話をしだす。
「雄ちゃんと穂香ちゃんは一緒にあの店を開いたんや」
「……」
「そりゃ仲のいい兄妹でな、穂香ちゃんのファンのお客さんで昔はすごいにぎわってたんや。雄ちゃんもいつもニコニコしててな、その視線の先にはいつも穂香ちゃんがいたんや」
そう言えば、この間穂香さんの話をしてくれた雄也は見たこともないくらい穏やかな顔だったな……。でも、そのあと、彼は悲しい顔になったんだ。
黙っている私を気にすることなく園子ちゃんは話し続ける。
「でも、八月のある日……ぱたりと穂香ちゃんは店に顔を出さんくなったんや」
「……どうしてですか?」
興味に負けたようでくやしいけれど聞きかえしていた。園子ちゃんは少しだけ私に顔を寄せると、
「失踪した、って噂や」
と、短く言った。
ああ、やはり聞くんじゃなかった。
「初めはな、うちらも楽観視していたんや。すぐに戻ってくる、って思ってた。けどな、時間だけがどんどん過ぎていってしもうてな……。気づけば雄ちゃんの口数は、どんどん減っていってしもうたんや」
「そんなことが……」
「書き置きを残して出ていったらしい。それしか言わない雄ちゃんは、今みたいに無口そのものになってしまった。聞いても穂香ちゃんの話になると貝みたいに口を閉ざしてしまう。だから、誰もそのあとがわからへんのや」
「じゃあ、それ以来穂香さんの姿を見た人はいない、ってことですか?」
静かに尋ねると、園子ちゃんはため息で答えた。
そうだったのか……。ふたりで始めたお店なのに大切なパートナーを失ったってことか。
なんだか雄也の知らない一面を見てしまった。
「助けてあげてほしいんや」
園子ちゃんの声はさっきよりも真剣に聞こえて、思わずその目を見た。