さっさと退散して買い物に行かなくては。こんな雨降りだと自転車も使えないし、早く行かないと就業時間が終わってしまう。最近は料理のレクチャーはあきらめたらしい雄也の代わりに買い物に行くことも増えていた。

出ていこうとする私の腕を大きな手がつかんだ。すねた顔の和豆さんは膨れっ面をして離さない。

「やだ。お茶でもしていきなさいよ。今日はまだ誰とも話してないのよ。それにこの雨でしょう? なんだか朝から気が滅入っちゃってるのよ。ね、少しだけ」

すねた顔の和豆さんは膨れっ面をして離さない。

「もう……」

ビジネスライクに、なんて決めごとも和豆さんにとっては知ったこっちゃないわけで。早々に切り上げる作戦も、私の負けが続いている状況。

体の力を抜いた私は、今日も敗北を認める。ツルッとした頭のまま、和豆さんはにっこりとほほ笑んだ。

「わかりましたよ。それより温かいうちに召し上がってくださいね」

「わかってるって。はい、あがってあがって」

パタパタと小股で駆けてゆく後ろ姿にため息。

あきらめて上がり框にあがって奥の和室に通されると、さっき頭に浮かんでいた『三笠焼き』が皿に載っていて驚いた。

横にはグラスが置いてある。カラン、と氷が夏の音をたてるグラスの中には、黄金色の液体が入っていた。

「こないだ漬けた梅ジュースよ。まだ浅いからそこまで味は染みてないかもしれないけど、けっこういけるのよ」

うふふ、と笑う住職さんってなかなかレアかもしれない。

毎回届けるたびにこうして食後のデザートを出してくれる和豆さん。彼のおしゃべりを断りきれないのは、この楽しみについつられてしまうのもあるわけで。

「いただきます」

梅ジュースを少し口に含むと、甘酸っぱさと角砂糖の甘さが広がった。

正座している和豆さんは満足そうに私を見ると、

「いただきまーす」

と、高い声を出してお盆に載っている土鍋の蓋を開けた。白い湯気がぼわっと宙に流れる。

レンゲで鍋の中をすくうと、茶色に染まったお米が現れた。

これは、『茶粥』というものらしい。

副菜は違えど、毎回和豆さんに届ける朝食は必ず茶粥なのだ。

「そんなに茶粥が好物なのですか?」

三笠焼をほおばりながら尋ねると、和豆さんは熱そうに口の中に空気を入れながら、