うなずきながら店内へ案内する。
「おはよ、雄ちゃん」
いつもの席に座った夏芽ちゃんが、「あ、今日おにぎりだ」と、カウンターに置かれているおひつを目ざとく見つけてはしゃいだ。
「こないだのアレはおにぎりとは呼べないからな」
「ひどい。あれだって立派なおにぎりだもん」
抗議しながらも夏芽ちゃんはニコニコと笑っていた。
「まぁ、前に出したやつと同じだけどな」
手際良く握ってゆく雄也。前にも出した『香りゴボウと牛肉の甘辛おにぎり』だ。
「ナムもおはよ」
左端の席に丸まっているナムは、チラッと顔を見て「なーん」と答えている。
できあがった朝ごはんを運ぶと、
「いただきます」
手を合わせて、すぐに両手で持ったおにぎりをほおばった夏芽ちゃんが、「おいしい!」と身もだえしている。
「あたりまえだ」
ふふ、と笑って夏芽ちゃんが宙に視線をやった。
「こんなふうに、おにぎりを見て笑える日がくるなんて思わなかった」
そうだよね、あの日同じおにぎりを食べていた夏芽ちゃんからは想像できないほど、心が元気になっているのが伝わってくる。
「よかったですね」
「うん」
うなずいた夏芽ちゃんに、ふと疑問が浮かんだ。
「そういえば、今さらですけれど……あの手首の傷はなんだったのですか?」
そもそもあれが、私の勘違いするスピードを一気にあげたのだった。それに答えたのは雄也だった。
「ナムのせいだろ」
「さすがは飼い主。わかってんじゃん」
ふたりの様子に「え?」としか言えなかった。
夏芽ちゃんはナムに目をやると、
「前にさ、爪切りをしてあげようとしたら大暴れされちゃったんだよ」
と、事の次第を明かしたので驚くしかない。
「それで、あの傷が?」
「詩織は早とちりしすぎなんだよ。その突っ走るクセはなんとかしたほうがいい」
ここぞとばかりに攻撃してくる雄也にムカッときたけれど、そこは自分でも自覚しているので言いかえせない。
「でもさ、雄ちゃん。そのおかげであたしは救われたんだよ」
「大げさだ」
ふん、とそっぽを向く雄也から私に視線をうつすと夏芽ちゃんはぺこり、と頭を下げる。
「詩織ちゃんおかげだよ。本当にありがとう」
「そんな、私なんて……」
「そうだ。調子にのるだけだ」
なぜか口を挟んでくる雄也をにらむと、意外にも笑顔がそこにあった。
「おはよ、雄ちゃん」
いつもの席に座った夏芽ちゃんが、「あ、今日おにぎりだ」と、カウンターに置かれているおひつを目ざとく見つけてはしゃいだ。
「こないだのアレはおにぎりとは呼べないからな」
「ひどい。あれだって立派なおにぎりだもん」
抗議しながらも夏芽ちゃんはニコニコと笑っていた。
「まぁ、前に出したやつと同じだけどな」
手際良く握ってゆく雄也。前にも出した『香りゴボウと牛肉の甘辛おにぎり』だ。
「ナムもおはよ」
左端の席に丸まっているナムは、チラッと顔を見て「なーん」と答えている。
できあがった朝ごはんを運ぶと、
「いただきます」
手を合わせて、すぐに両手で持ったおにぎりをほおばった夏芽ちゃんが、「おいしい!」と身もだえしている。
「あたりまえだ」
ふふ、と笑って夏芽ちゃんが宙に視線をやった。
「こんなふうに、おにぎりを見て笑える日がくるなんて思わなかった」
そうだよね、あの日同じおにぎりを食べていた夏芽ちゃんからは想像できないほど、心が元気になっているのが伝わってくる。
「よかったですね」
「うん」
うなずいた夏芽ちゃんに、ふと疑問が浮かんだ。
「そういえば、今さらですけれど……あの手首の傷はなんだったのですか?」
そもそもあれが、私の勘違いするスピードを一気にあげたのだった。それに答えたのは雄也だった。
「ナムのせいだろ」
「さすがは飼い主。わかってんじゃん」
ふたりの様子に「え?」としか言えなかった。
夏芽ちゃんはナムに目をやると、
「前にさ、爪切りをしてあげようとしたら大暴れされちゃったんだよ」
と、事の次第を明かしたので驚くしかない。
「それで、あの傷が?」
「詩織は早とちりしすぎなんだよ。その突っ走るクセはなんとかしたほうがいい」
ここぞとばかりに攻撃してくる雄也にムカッときたけれど、そこは自分でも自覚しているので言いかえせない。
「でもさ、雄ちゃん。そのおかげであたしは救われたんだよ」
「大げさだ」
ふん、とそっぽを向く雄也から私に視線をうつすと夏芽ちゃんはぺこり、と頭を下げる。
「詩織ちゃんおかげだよ。本当にありがとう」
「そんな、私なんて……」
「そうだ。調子にのるだけだ」
なぜか口を挟んでくる雄也をにらむと、意外にも笑顔がそこにあった。