「俺が思うに、きっと夏芽が拒否したんじゃないか。違うか?」

お母さんがためらいながらもゆっくりとうなずいた。

「……あたしが?」

「きっと反抗期に差しかかったのだと思うの。ある日、急に河村さんを拒否しだしたの」

思い出すように目を細めたお母さんが言うと、夏芽ちゃんは記憶をたどろうとしているのかキュッと目を閉じた。

「ふたりで何度も話し合ってね。夏芽が大きくなるまでは会うのはやめることにしたのよ」

うつむいたままのお母さんに夏芽ちゃんが、

「覚えてないよ。私……覚えてない」

また泣きだしそうな顔に変わってゆく。

「だから、最後に奈良公園へふたりでピクニックに出かけたの。そのことを夏芽が覚えていたなんて、お母さんぜんぜん思ってもいなかった」

「覚えてないよ!」

夏芽ちゃんは悲痛な叫び声をあげた。

「そんな……。じゃあ、あたしのせいで?」

ぽろり、と涙をこぼした夏芽ちゃんは荒く息をしている。

「違うわよ」

お母さんが力を入れて肩を抱いても、駄々っ子のように首を横に振るだけ。

「あたしが拒否したせいでふたりは幸せになれなかった、ってことでしょう?」

なんだか胸がモヤモヤしてきた。余計なことは言わないほうがいいのに、なんだか言葉がお腹のあたりにたまってきているのがわかった。

夏芽ちゃんはお母さんの手をほどくと、

「そんな昔にふたりを傷つけて、それで今でも反対しているなんて最低じゃん。しかもウソの記憶で混乱してたなんて……」

「違う、と思います」

気づいたときにはもう言葉にしていた。

思ったよりも大きな声での発言に、みんなの視線が一斉に集まるのを感じながら、私は夏芽ちゃんを見た。

「夏芽ちゃんのせい、じゃなくて、夏芽ちゃんのため、だと思います」

「でも、拒否したことには変わりないし」

「それがその日の夏芽ちゃんの気持ちなら仕方ないです。それに、おふたりもそう受け止めたんだと思うんです」

ふたりを見ると、深い肯定の目で私を見ていた。

夏芽ちゃんは鼻をすすると、

「あたしはどうすればいいの? だって、全部自分が勘違いして覚えていたんだよ? これからどうすればいいの?」

そう私に尋ねた。

この小さな体と心で一生懸命考えている彼女を救いたい。

「全部がわかった今も、夏芽ちゃんはまだ新しいお父さんを受け入れられないのですか?」