朝食に汁物がないのは初めてのことだった。

「意味がわからない」

と言う私に、雄也はまた言う。

「待っていればわかるさ」

と。



九時を少し過ぎたころ、戸がガラガラと開いた。

「いらっしゃいませ。おはようございます」

声をかけるが、なぜか人の姿が見えない。

なにやら外で言い合っている声が聞こえるので、そちらに向かおうとする私の腕を雄也がつかんだ。

「放っておけ。そのうち入ってくる」

「でも……」

反対しようとして思い出す。この間も雄也の言うことを聞かなかったからややこしいことになったんだ、って。

雄也の言葉通り、しばらくして姿を見せたのは押されるようにして入ってくる夏芽ちゃんだった。

「おはようございます」

私の挨拶にもふてくされた態度で、ずんずん中に進むと右端の席に腰かけた。

「聞いてないんですけど」

朝からご機嫌はナナメのようだ。

「あたりまえだ。言ってないんだから」

そっけなく言う雄也をにらむ夏芽ちゃん。

「なにそれ」

ムスッとした顔のままカウンターに両肘をついてあごを載せている。

「今日はありがとうございます」

河村さんがポロシャツにジーンズといった軽装で姿を見せ、後ろからお母さんも。

これで家族が勢ぞろいしたってことだ。

いや、まだ正式な家族ではないのだろうけれど。

「なんで今日開いてるの? 連休は休みでしょ?」

「たまたまだ」

雄也が棚からなにかを取り出した。

それは、プラスチックでできた四角い箱。

これって……。

「連休中も開いてるなら言ってよ。それならここで朝ごはん食べるのに」

隣に座ったお母さんに聞こえるように言う夏芽ちゃんは、

「あーあ」

なんてため息をついている。

修羅場の予感をひしひしと感じてもなお、私には状況が理解できていないので、お茶を出すくらいしかできない。

そのときだった。

忙しく手元を動かしていた雄也が、

「なぁ、夏芽」

と、声をかけた。

「なによ」

夏芽ちゃんと同じように私も雄也の顔を見るが、視線は料理にやったままだった。

「そろそろ素直になれよ」

「は?」

不機嫌さをあらわにした声に、雄也は苦笑した。

「いちいち突っかかるなよ。意地をはっててもしょうがないだろ」

「意地なんて張ってない」

「じゃあ、自分の気持ちをちゃんと言ってみろ」