昔は開店していたそうだけど、観光客が紛れこんでくることに辟易した雄也が『連休は休む』と宣言したのだ、と園子ちゃんが教えてくれた。

たしかにまだ朝の八時前というのに猿沢池の周辺にはいろんな国の言葉が飛び交っている。

今日もたくさんの人でにぎわうのだろうな。

自転車を走らせ店の前に着くと、やはりのれんは出ていなかった。

「おはようございます」

そう言って中に入ると、

「おう」

と、いつもの短い挨拶。

最近はぶっきらぼうで言葉数の少ない雄也にも慣れてきた。今日の声色からすると、機嫌がいいみたい。一緒にいると、ちょっとしたイントネーションでもわかるほどになっていた。

だけど、解せないのは……。

「今日、いったいどうするつもり?」

作務衣に着替え、たすきを結びながら厨房に入る。

「臨時開店ってやつだな」

仕こみをしながら言う雄也にあきれる。

「そうじゃなくてさ、夏芽ちゃんの許可もなく家族を呼んで大丈夫なの? なにをするのか聞いても教えてくれないじゃん」

「まぁ、待っていればわかる」

「はいはい。もうそればっかり」

手を洗いながら不安な気持ちがこみあげてくる。

いったい雄也はなにをしようとしているのだろう?

この間、夏芽ちゃんのお母さんと河村さんにおにぎりを作らせたことに始まっているのはわかる。

悪戦苦闘しながらおにぎりを作って食べたふたりを雄也は眺めてから、

『そうか』

と、納得したようにうなずいていたから。

『子供の日は休み?』

食事を終えたころ、雄也がふたりに尋ねた。

うなずいた顔を見て雄也は、

『じゃあ、九時に家族みんなで来てほしい』

そう言ったのだ。

以来、なにを聞いても雄也は答えてくれない。

謎が今日解かれるわけだけれど、夏芽ちゃんが心を開かない現状では時期尚早な気もしている。

修羅場にならなきゃいいけど……。

厨房に白米の炊けるよい香りがしている。雄也が手際良く準備しているのは、卵焼きや焼いたウインナーといった普段はあまり朝食には並ばないメニュー。

……違和感。

せっかく夏芽ちゃんたち家族を呼ぶのに、どうしてこんな普通のメニューなのだろう?

「あれ、そういえば味噌汁作ってないよ?」

空っぽの寸胴鍋がぽっかり口を開けている。

「いいんだ。今日は汁物はなし」

「なし?」