人の家の前のベンチに腰をおろしているわけにもいかないけれど、重りが体中にのしかかっているみたいで立ち上がれない。


「お前、泣くのか?」


その声が聞こえたとき、私は汚れた新しい靴をぼんやりと見ていた。

散々悩んで予算よりも高めのものに決めたのも遠い昔のように感じられた。

そうしてから、ようやく誰かに声をかけられたことに気づいて顔を上げる。


……今のは?


朝の光が照らす道の向かい側に太った猫が寝そべっているのに気づいた。

気持ちよさそうに寝ている茶色の猫がひょいと顔を上げてこっちを見てくる。


まさか……猫がしゃべっている?


あまりのショックに猫語がわかるようになったのだろうか……?