最近は、これまでのような笑顔も少なく心ここにあらずといった夏芽ちゃんの姿は、私の気持ちまでも落ちこませている。

雄也の言うことももちろんわかるよ。あくまで私は店員だし、お客さんのプライベートに首を突っこんだりしてはいけないって。

でも家庭内暴力となれば、話は別だよ。

たとえお客さんと従業員の関係でも、なんとかしてあげたい、って思うじゃん。

「はあ」

ため息ばかり出てしまう。それは私も同じように悲しい経験をし、それを救ってもらったことがあるからだろう。

あの日、私はたしかに雄也に救われたのかもしれない。

けれど今回はその雄也が私にストップをかけている。ひょっとしたら彼は、私が思っていたような人ではなかったのかも。じゃあ、あの日、私にくれたやさしさはなんだったの?

「意味がわかんないよね」

つぶやきながら結局なにも買わずに案内所を出た。

昼食の時間になっていた町は、いくぶん人も多くなってきているようだ。いろんな色のカサが流れてゆくのを駅ビルの出口でぼんやり見ていた。

そのときだった。

「……いらないよ」

どこからか聞こえた声にキョロキョロと辺りを見回した。

この声……どこかで聞いたことがある。少し場所を移して顔を確認すると、声の主は夏芽ちゃんだった。制服じゃないのですぐにはわからなかった。

夏芽ちゃんはかみしめた唇を震わせ、目の前の女性をにらむように見ている。

「いらない? なにがよ」

と、いうことは……うなるように怒っているこの人が夏芽ちゃんのお母さん? そして向こうにいる男性が新しいお父さんなのかも。

ずっと考えていた相手が急に目の前に現れて驚きのあまりぽかん、と眺めていることしかできなかった。

偶然とはいえ、これは神様が私に夏芽ちゃんを救え、と言っているようにすら思えてくる。

いや、きっとそうだ。

「いらない」

ゆっくり何度も首を横に振ってから、夏芽ちゃんは憎しみを絞りだすかのようにお母さんに言う。

夏芽ちゃんの声色に危険信号を察知した。

向かい合っているお母さんの表情が険しくなってゆく。

このままじゃ、夏芽ちゃんが危ない。

「新しいお父さんなんていらない!」

夏芽ちゃんが叫ぶように言ったのと同時に、お母さんが手を振り上げたのが見えた。

とっさに間に飛びこむように割って入った。

─パンッ!