非難するような言いかたになってしまった。だけど、気にも留めていないのか、雄也は「まったく」とつぶやいて本を乱暴に閉じた。
「冷たくない。本当に助けてほしいやつはきちんと助ける」
「きっと夏芽ちゃん、すごく苦しんでいるんだよ。きっと助けてほしくて私に話をしてくれたんだよ」
「あのなぁ」
雄也がようやく体ごと私を向いた。
「なによ」
「これだけは確実に言える。お前が出ていったら話がこじれるに決まっている」
「でも、話を聞いた以上─」
言いかけた私に手のひらでストップをかけた雄也は、立ち上がってから腰に腕を当てた。
「放っておけ。以上、この話は終わり」
「なっ……」
絶句した私に、
「こんにちは」
今日はいつもより遅く園子ちゃんが店に入ってきた。
「今日は冷えるから長袖にしたわ、って……あら?」
雄也と私を交互に眺めると首をかしげた。
「痴話ゲンカかいな」
「違います」
即座にそう答えると、雄也はもう調理をすべく材料を冷蔵庫から出している。
「ふうん。空気が重かったからケンカかと思ったわ」
カウンターからレシートをどけながら、
「ケンカにもならない」
そう言ってから厨房に入る私。
「ほんとにな」
雄也も負けていない。
イスに腰かけた園子ちゃんはお茶を用意する私をじっと見てくると、今度は雄也に視線を移す。
「やっぱりケンカやな」
園子ちゃんの笑い声が響く店内で、気になるのは夏芽ちゃんのことだけだった。
休みはずっと雨の予報。
昨日の土曜日は寝たり起きたりを繰りかえして過ごしたけれど、さすがに二日もじっとしていられない。
バスに乗って駅前まで来た私は、駅の中にある観光案内所へ。前から気にはなっていたけれどなかなか来る機会がなかったのでちょうどよかった。
いつもは、外国のお客さんでこみ合っている案内所も、雨のせいか人は少ない。
カウンターの端っこに並んでいる奈良のマスコットキャラクターである鹿の小物を見ていても、気持ちは外の天気と同じで晴れなかった。
それは夏芽ちゃんのことを考えてしまうからに他ならない。
土日は店もやっていないから、どうやって過ごしているんだろう? 新しいお父さんからなんとか逃げられていればいいけど、この雨じゃ行くところも少ないだろうし。