「あのね、夏芽ちゃんのことなんだけどね」
夏芽ちゃんの手首の傷を見てから一週間が経っていた。
あれからしばらくこの話題はしないようにしていた私。どうせ口にしてもシャットアウトされるだろうから。
でもあの日以来、夏芽ちゃんは悩んでいる顔を隠すことはなくなってきていた。ぼんやりと考えこむことが多くなり、その変化ははたから見ても明らかだった。
雄也も感じているのだろう、チラッと私を見てくるが遮ることはしなかった。
「夏芽ちゃん、大丈夫なのかな? 最近おかしいでしょう」
「……知らん」
ようやくの返事もそっけない。レシートを持っていた手を休めて私は雄也を見る。
「この間、夏芽ちゃん『怖い』って言ってた。それに手首に傷があったよね。それってもしかして……」
言いながらゾクッとした。
考えられるとしたらひとつしかない。あの日以来ずっと考えていた答えを口にした。
「家庭内暴力を振るわれているんじゃないか、って」
言葉にすると本当のことのように思えた。そう、きっと夏芽ちゃんは新しいお父さんから虐待を受けているんだ。
ニュースでしか見たことのない出来事がこんな近くで起こっているなんて。
きっと怖くて悲しいだろうな。
中学生の女の子にそんな思いをさせているのなら、なんとかしてあげたい。
夏芽ちゃんだって悩んでいるからこそ、あんな表情になっているんだし。
だけど雄也は、
「余計なことはしないほうがいい」
とだけ言って本から目を離さない。
「でも、でもね」
「読書中」
話をする気はもうないらしく、さっきよりも奥のほうを向いてしまう。
知れば知るほどに雄也は他人に興味がないようにしか思えない。毎日のように来てくれているお客さんなのに、まったくの無関心とはあきれてしまう。
「夏芽ちゃんはまだ中学生なんだよ。あんな小さい子が悩んでいるのに、なんとも思わないわけ」
「突っ走りすぎなんだよ。詩織、少し落ち着け」
「落ち着くって、そんなこと言ってられないでしょ。今日も学校から帰ったら、夏芽ちゃんは新しいお父さんに暴力を振るわれるかもしれないのに」
「それはただの妄想だろ」
頭にだんだん血が上っているのか熱くなってきている。こんなに冷たい人だったっけ? 私が傷ついていたあの朝、手を差し伸べてくれたと思っていたのは勘違いだったの?
「冷たすぎるよ」
夏芽ちゃんの手首の傷を見てから一週間が経っていた。
あれからしばらくこの話題はしないようにしていた私。どうせ口にしてもシャットアウトされるだろうから。
でもあの日以来、夏芽ちゃんは悩んでいる顔を隠すことはなくなってきていた。ぼんやりと考えこむことが多くなり、その変化ははたから見ても明らかだった。
雄也も感じているのだろう、チラッと私を見てくるが遮ることはしなかった。
「夏芽ちゃん、大丈夫なのかな? 最近おかしいでしょう」
「……知らん」
ようやくの返事もそっけない。レシートを持っていた手を休めて私は雄也を見る。
「この間、夏芽ちゃん『怖い』って言ってた。それに手首に傷があったよね。それってもしかして……」
言いながらゾクッとした。
考えられるとしたらひとつしかない。あの日以来ずっと考えていた答えを口にした。
「家庭内暴力を振るわれているんじゃないか、って」
言葉にすると本当のことのように思えた。そう、きっと夏芽ちゃんは新しいお父さんから虐待を受けているんだ。
ニュースでしか見たことのない出来事がこんな近くで起こっているなんて。
きっと怖くて悲しいだろうな。
中学生の女の子にそんな思いをさせているのなら、なんとかしてあげたい。
夏芽ちゃんだって悩んでいるからこそ、あんな表情になっているんだし。
だけど雄也は、
「余計なことはしないほうがいい」
とだけ言って本から目を離さない。
「でも、でもね」
「読書中」
話をする気はもうないらしく、さっきよりも奥のほうを向いてしまう。
知れば知るほどに雄也は他人に興味がないようにしか思えない。毎日のように来てくれているお客さんなのに、まったくの無関心とはあきれてしまう。
「夏芽ちゃんはまだ中学生なんだよ。あんな小さい子が悩んでいるのに、なんとも思わないわけ」
「突っ走りすぎなんだよ。詩織、少し落ち着け」
「落ち着くって、そんなこと言ってられないでしょ。今日も学校から帰ったら、夏芽ちゃんは新しいお父さんに暴力を振るわれるかもしれないのに」
「それはただの妄想だろ」
頭にだんだん血が上っているのか熱くなってきている。こんなに冷たい人だったっけ? 私が傷ついていたあの朝、手を差し伸べてくれたと思っていたのは勘違いだったの?
「冷たすぎるよ」