たしか、奈良駅前にある『東向商店街』がたくさんの人でにぎわっていたので、逃れるように脇道にそれたような記憶がある。

その細い道を進むと、そこには『ならまち』と呼ばれる、古い町並みを残した風景が広がっていた。


ぼんやりした頭で迷路のような道を歩いたんだっけ……。


ベンチから見える行き止まりの道のそばにある桜の木は、たくさんのピンクをまとっている。
 
その咲き誇っている姿にすら嫉妬しそうになる。

悲しくてやりきれないのに、なぜか涙は出なかった。

そんな感情すら出てこないくらい現実をまだ受け入れられていないんだ。

今日の出来事を反芻しようとしても、見上げた空があまりにまぶしくて、自分をちっぽけに感じる。