園子ちゃんは夜のお仕事をしている、とこの間言ってたっけ。ここで食べるごはんが、彼女の朝ごはんなのだろう。そういう意味では、今朝の雄也の説明も納得できる。
多数決で一般常識を決めてはいけない、ってことか。
「お店、ってスナックとか?」
「まあな。ちっちゃい店やけどな」
へぇ、と改めて園子ちゃんの顔を見た。明るい人柄だから、楽しそうな店なんだろうな。
「って言っても、観光客相手やないで。うちは一見さんお断りの店やからな。ここと一緒や」
そう言いながら店内を見回して赤い唇で笑っている。
「一応、うちの店は『奈良町通り』に面してるけどな」
「そうなんですか」
「まぁ『奈良町通り』っていっても、この辺りには同じ名前の通りが何本もあるんやけどな」
一週間通ってもまだ慣れることはなかった。いくつも『奈良町通り』があるからややこしいのだ。
「この店は道に迷わないと来られないような場所ですもんね」
「もともとは『平城京』の道筋をもとに造られたらしいわ。江戸時代には産業の町として栄えたらしいで」
「そのころからあるんですか?」
言いながら、それもそうだと納得した。古い家がたくさん並んでいる通りだから歴史も古いはず。
「元興寺ってあるやろ?」
「あ、少し先にあるお寺ですよね」
一度迷ったときに横を自転車で走り抜けたことがある。
「元興寺の周りはそうとう栄えててな、たくさんの店が軒を連ねていたらしいわ」
「そうなんですか」
「でも、元興寺が中世以降に衰退したんやって。で、お店があったところに町屋と呼ばれる民家が立ち並んだのが『ならまち』っていうんや」
「だから広いんですね」
「相当な広さやし、観光名所になってからはどんどん広がってる気がするわ。外人さんからしたら古い町並みは珍しいんやろうな」
それだけ歴史のある町で仕事をしていることがなんだか不思議だった。うれしい、とかじゃなく異世界に紛れこんだような感覚。
特に歴史に興味がない私なんかがいいのかな、と気おくれしてしまう。
「でもここは、ならまちはずれやもんな」
突然園子ちゃんが口にした言葉に、ハッとしてその顔を見た。
「ならまちはずれ? それってどこかで聞いたことが……」
言いながら思い出した。この会社の名前だ。けれど園子ちゃんはそのことを知らないらしい。
多数決で一般常識を決めてはいけない、ってことか。
「お店、ってスナックとか?」
「まあな。ちっちゃい店やけどな」
へぇ、と改めて園子ちゃんの顔を見た。明るい人柄だから、楽しそうな店なんだろうな。
「って言っても、観光客相手やないで。うちは一見さんお断りの店やからな。ここと一緒や」
そう言いながら店内を見回して赤い唇で笑っている。
「一応、うちの店は『奈良町通り』に面してるけどな」
「そうなんですか」
「まぁ『奈良町通り』っていっても、この辺りには同じ名前の通りが何本もあるんやけどな」
一週間通ってもまだ慣れることはなかった。いくつも『奈良町通り』があるからややこしいのだ。
「この店は道に迷わないと来られないような場所ですもんね」
「もともとは『平城京』の道筋をもとに造られたらしいわ。江戸時代には産業の町として栄えたらしいで」
「そのころからあるんですか?」
言いながら、それもそうだと納得した。古い家がたくさん並んでいる通りだから歴史も古いはず。
「元興寺ってあるやろ?」
「あ、少し先にあるお寺ですよね」
一度迷ったときに横を自転車で走り抜けたことがある。
「元興寺の周りはそうとう栄えててな、たくさんの店が軒を連ねていたらしいわ」
「そうなんですか」
「でも、元興寺が中世以降に衰退したんやって。で、お店があったところに町屋と呼ばれる民家が立ち並んだのが『ならまち』っていうんや」
「だから広いんですね」
「相当な広さやし、観光名所になってからはどんどん広がってる気がするわ。外人さんからしたら古い町並みは珍しいんやろうな」
それだけ歴史のある町で仕事をしていることがなんだか不思議だった。うれしい、とかじゃなく異世界に紛れこんだような感覚。
特に歴史に興味がない私なんかがいいのかな、と気おくれしてしまう。
「でもここは、ならまちはずれやもんな」
突然園子ちゃんが口にした言葉に、ハッとしてその顔を見た。
「ならまちはずれ? それってどこかで聞いたことが……」
言いながら思い出した。この会社の名前だ。けれど園子ちゃんはそのことを知らないらしい。