昼過ぎに来るお客さんにとっては『昼ごはんじゃないの?』って思っていたのもたしかだし。

憮然とした顔で雄也は口を開いた。

「その人の新しい一日のはじまりに食べる食事が朝ごはんだ。自分の中で勝手に作った常識に当てはめるのは悪いクセだぞ」

「・新しい一日のはじまり・? じゃあ昼に食べるのも朝ごはん? それって一般的に見るとおかしくない?」

よくわからなくて尋ねると、夏芽ちゃんもうんうん、とうなずいてくれている。

「まったく」

つぶやいた雄也が、嘆くようにため息をついてから口を開いた。

「起きて最初に食べるごはんだから朝ごはんなんだ。この店は、一日のはじまりを応援するために存在しているんだ」

言われて気づいた。この話は、この間聞いたばかりだった、と。

雄也はここに来る人が元気に一日を過ごせるように、温かい朝ごはんを提供しているんだ。

「それにだ」と、咳ばらいをしてから雄也は言う。

「時間は人それぞれだ。昼前に起きて朝ごはんを食べる人だっているんだ。お前ら人間の悪いクセは、多数決で一般常識を決めたがることだ」

自分だって人間のくせに、と思ったけれどもう雄也は洗い物を再開している。

夏芽ちゃんに目をやると、聞いているのかいないのか、ぼんやりと宙を眺めていた。まるでお父さんとの思い出の中にいるみたい。

やっぱり、家から逃げ出して来ているのかもしれない。ひょっとしたら、新しいお父さんになる人が怖いのかも。新しく家族になった人からしいたげられる、ってニュースもたまに見るし……。

ひょっとして暴力とか─振るわれてるんじゃ……。

さっきも、なにかが『怖い』って言ってたし、そういう事態も十分考えられる。

てことは、そういう理由も十分考えられる。

「そろそろ行こうかな」

想像が走り出している私に、夏芽ちゃんの声が届いた。

「あ、はい」

見るとすっかり食べ終わっている。

「ごちそうさまでした」

と、手を合わせている表情にさっきまでの悲しみは見られなかった。

するっと立ち上がると、スカートのポケットから五百円玉を取り出そうとしているので待った。

私の手にそれが載せられるときに気づいた。

「あ……」

夏芽ちゃんの手に切り傷がいくつかあった。まだ新しいようで絆創膏がいくつも並んでいる。

「夏芽ちゃん、それ……」