ガチャガチャと食器を洗う音が聞こえている中、夏芽ちゃんは「ふ」と笑う。

「でも、そのおにぎりって、とにかく変わっていたの。あんなおにぎり見たことないくらい」

少しうつむくその顔がまた悲し気に見えた。

急にお父さんのことを思い出させてしまったせいで、感情が不安定になっているのかもしれない。なんとか話題を変えなくちゃ……。

「おにぎり以外にはなにが好きなのですか?」

「えー。雄ちゃんが作ったものならなんでも好きだよ。家とは大違い」

まだ無視を決めこんでいるらしい雄也から視線を私に向けた夏芽ちゃんを見て、不思議な気がした。

そう言えば、夏芽ちゃんはしょっちゅうここに来ているけれど、さっき言っていた両親の離婚と関係があるのだろうか。

「家とは大違い、って?」

あ、また質問してしまった。ギロッとにらんでくる雄也に気づくけれどもう遅い。また聞いちゃいけないことを口にしたらしい。

しゅんと肩を落とす私に、夏芽ちゃんが笑い声をあげた。

「雄ちゃん怒らないの。あたしが話したいんだから。だってこういう話、雄ちゃんは聞いてくれないじゃん」

「俺はなにも言ってない」

不満の声をあげる雄也に、夏芽ちゃんは、

「顔で言ってるの」

ぴしゃりと言ってから、私を見た。

「実は……お母さんが今度再婚することになって。もう新しいお父さんも一緒に住み始めてるんだ」

思いもよらない話に、今度こそ私は口を閉じた。だって、なんて言っていいのか言葉を選べない。

夏芽ちゃんは、ゆるりと首をかしげた。

「あたし、家にいづらいんだ。だから、毎朝ここで朝ごはん食べるの」

こんな話なのに悲しみを消して笑いながら夏芽ちゃんは話している。でも、小さな体の中にたくさんの感情がうごめいているのが伝わってくる。

「新しいお父さんとうまくいってないのですか……?」

髪を揺らして首を横に振った夏芽ちゃんは、

「お母さんには幸せになってほしいって思ってるよ。だけど……」

そこで言葉を区切った。

黙ってしまった夏芽ちゃんに私もならって沈黙する。その間に新しいお茶を入れた。

茶葉が広がってゆき香りが生まれてゆく中、

「怖いの」

と、夏芽ちゃんは小さな声で言う。

「怖い?」

「……うん」