カゴごと渡すと、ほんの数秒だけ小鍋で茹でてから取り出す。さっきよりも緑色が濃くなった碓井えんどうに食欲がわいてくる。その中から数本を取り出してからペーパータオルで拭き始める雄也。
じっと私が見ていることに気づいたのか、
「こうして水分を取らないと味が薄くなるだろ」
と、横顔で教えてくれる。なるほど、と言葉にはせずにうなずいた。
「詩織ちゃん、もう慣れた?」
カウンターの向こうから尋ねてくる夏芽ちゃんに曖昧にほほ笑むと、
「まだ、か」
察したらしく目を細めてくる。
「覚えることが多くって……。でもがんばっています」
「大変なのは最初だけだもんね。あたしも『先輩』って呼ばれるのにまだ慣れてない」
そっか、夏芽ちゃんは今月から中学二年生。一年生から見れば先輩ってわけだ。
まだまだあどけない表情なのに、確実に年を重ねてゆくものなんだね。
「にしても、雄ちゃんが人を雇うなんてね」
カウンター越しに覗きこんで笑う夏芽ちゃんに、
「なんでだよ」
不平の声をあげる雄也。
「だって基本、人嫌いでしょ。あたしとしゃべり始めたのだって最近じゃん」
「んなことない」
「んなことあるもん。愛想のなさは有名だよ。詩織ちゃんが来てくれて良かった、ってみんな言ってるよ」
平然と言ってのける夏芽ちゃんにびっくりした。そんなふうに言ってくれている人がいるなんて、少しうれしい。
「ふん」
子供みたいに言った雄也が、ぶすっとした表情のまま、
「用意して」
と短く言う。これを合図に、味噌汁と副菜、ごはんの順によそってゆくのだ。その準備が終わると同時に朝食ができあがるので、いつでも熱々を提供できている。
今日の副菜の小鉢を見ると、すでにカブや青菜などが綺麗に盛りつけられていた。
「それをかける」
雄也のさした先には、弱火にかけた鍋が。とろみのついている金色の餡がことこと白い泡を生んでいた。言われたとおりにかけると、野菜はさらに輝きを増したように見えた。
頂上にさっきの碓井えんどうを雄也が置いた。
お盆に載せられた食事を見て、夏芽ちゃんは目を丸くした。
「今日はおにぎりだ!」
真ん中に形良く握られたおにぎりがふたつ置かれている。巻いてある海苔の間から見えるお米は、味つけごはんのようで茶色く輝いていた。
「おにぎりがそんなに好きなのですか?」
じっと私が見ていることに気づいたのか、
「こうして水分を取らないと味が薄くなるだろ」
と、横顔で教えてくれる。なるほど、と言葉にはせずにうなずいた。
「詩織ちゃん、もう慣れた?」
カウンターの向こうから尋ねてくる夏芽ちゃんに曖昧にほほ笑むと、
「まだ、か」
察したらしく目を細めてくる。
「覚えることが多くって……。でもがんばっています」
「大変なのは最初だけだもんね。あたしも『先輩』って呼ばれるのにまだ慣れてない」
そっか、夏芽ちゃんは今月から中学二年生。一年生から見れば先輩ってわけだ。
まだまだあどけない表情なのに、確実に年を重ねてゆくものなんだね。
「にしても、雄ちゃんが人を雇うなんてね」
カウンター越しに覗きこんで笑う夏芽ちゃんに、
「なんでだよ」
不平の声をあげる雄也。
「だって基本、人嫌いでしょ。あたしとしゃべり始めたのだって最近じゃん」
「んなことない」
「んなことあるもん。愛想のなさは有名だよ。詩織ちゃんが来てくれて良かった、ってみんな言ってるよ」
平然と言ってのける夏芽ちゃんにびっくりした。そんなふうに言ってくれている人がいるなんて、少しうれしい。
「ふん」
子供みたいに言った雄也が、ぶすっとした表情のまま、
「用意して」
と短く言う。これを合図に、味噌汁と副菜、ごはんの順によそってゆくのだ。その準備が終わると同時に朝食ができあがるので、いつでも熱々を提供できている。
今日の副菜の小鉢を見ると、すでにカブや青菜などが綺麗に盛りつけられていた。
「それをかける」
雄也のさした先には、弱火にかけた鍋が。とろみのついている金色の餡がことこと白い泡を生んでいた。言われたとおりにかけると、野菜はさらに輝きを増したように見えた。
頂上にさっきの碓井えんどうを雄也が置いた。
お盆に載せられた食事を見て、夏芽ちゃんは目を丸くした。
「今日はおにぎりだ!」
真ん中に形良く握られたおにぎりがふたつ置かれている。巻いてある海苔の間から見えるお米は、味つけごはんのようで茶色く輝いていた。
「おにぎりがそんなに好きなのですか?」