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「あれ……」
どう見ても四時半と光っているように思えた。布団から出ると、さすがにまだ少し寒い。カーテンを少しだけ開くと、夜の空が頭上に広がっていた。遠くに紫色に塗られた空のふちが美しく光っている。
どうやら早く起きすぎたらしい。
しばらく明けてゆく空を眺めていたけれど、とりあえずスーツに着替えた。
軽くメイクをすると、昨日のカバンをそのまま手に持って玄関を出た。薄い扉を開けると、まだ暗い町にいくつか部屋の電気がついている家が見えた。
こんな時間にハローワークが開いていないことくらいわかっている。
カンカンと、金属の階段を打ち鳴らすように下りると、道路に面した駐輪場の前に立った。
そこで一瞬だけ迷いが生まれた。
……私は、なにをしようとしているの? どこへ行こうとしているの?
自転車の鍵を解除しながら自分に問いかける。大学のときに通学に使っていた自転車を持ってきて正解だった。
「バスがまだ走ってないから仕方ないよね」
言い訳をするようにまたがると冷たいサドルに背筋が伸びるよう。そのまま明け方の町にペダルを踏んだ。
すぐに生まれる風を後ろに流しながら、だんだん軽くなるペダルを感じて走る。背中には夜を背負って、遠くに見えそうな朝に向かって進むうちに、悩みも溶けてゆくように思えた。夜を切り裂きながら感じる風は、この上なく気持ちが良かったのだ。
人間は複雑なようで意外に単純なのかもしれない。
もう、ごまかすのはやめよう。
私は今、雄也の店を目指して走っている。
単に早く目が覚め、ハローワークに行くまでには時間があるからだ、という言い訳を引っ提げて自転車をこいでいる。
バスに乗っていると長く感じる時間も、奈良駅まではあっという間だった。ほのかに明るくなってきた駅前の東向商店街はシャッターも閉まっていて、観光客の姿も見えない。アーケードに響くのは、私の自転車のタイヤが回転する音だけ。
途中で左に曲がると、そこは猿沢池の辺り。早朝に出発するのか観光バスがエンジンを吹かせて停まっている横をすり抜ける。
「さて、ここから……」
記憶を頼りに右へ左へ。
見つからなかったら帰ればいいや、という気持ちだったはずなのに、いつの間にかどうしてもたどり着きたくなっていた。
「あれ……」
どう見ても四時半と光っているように思えた。布団から出ると、さすがにまだ少し寒い。カーテンを少しだけ開くと、夜の空が頭上に広がっていた。遠くに紫色に塗られた空のふちが美しく光っている。
どうやら早く起きすぎたらしい。
しばらく明けてゆく空を眺めていたけれど、とりあえずスーツに着替えた。
軽くメイクをすると、昨日のカバンをそのまま手に持って玄関を出た。薄い扉を開けると、まだ暗い町にいくつか部屋の電気がついている家が見えた。
こんな時間にハローワークが開いていないことくらいわかっている。
カンカンと、金属の階段を打ち鳴らすように下りると、道路に面した駐輪場の前に立った。
そこで一瞬だけ迷いが生まれた。
……私は、なにをしようとしているの? どこへ行こうとしているの?
自転車の鍵を解除しながら自分に問いかける。大学のときに通学に使っていた自転車を持ってきて正解だった。
「バスがまだ走ってないから仕方ないよね」
言い訳をするようにまたがると冷たいサドルに背筋が伸びるよう。そのまま明け方の町にペダルを踏んだ。
すぐに生まれる風を後ろに流しながら、だんだん軽くなるペダルを感じて走る。背中には夜を背負って、遠くに見えそうな朝に向かって進むうちに、悩みも溶けてゆくように思えた。夜を切り裂きながら感じる風は、この上なく気持ちが良かったのだ。
人間は複雑なようで意外に単純なのかもしれない。
もう、ごまかすのはやめよう。
私は今、雄也の店を目指して走っている。
単に早く目が覚め、ハローワークに行くまでには時間があるからだ、という言い訳を引っ提げて自転車をこいでいる。
バスに乗っていると長く感じる時間も、奈良駅まではあっという間だった。ほのかに明るくなってきた駅前の東向商店街はシャッターも閉まっていて、観光客の姿も見えない。アーケードに響くのは、私の自転車のタイヤが回転する音だけ。
途中で左に曲がると、そこは猿沢池の辺り。早朝に出発するのか観光バスがエンジンを吹かせて停まっている横をすり抜ける。
「さて、ここから……」
記憶を頼りに右へ左へ。
見つからなかったら帰ればいいや、という気持ちだったはずなのに、いつの間にかどうしてもたどり着きたくなっていた。