二つ目は、総務部に配属されるはずだった私が、料理屋で働くのはあまりにも方向性が違う、ってこと。たしかに料理は嫌いじゃないけれど、職業にするほど興味がある分野ではないし。

それにあの場所にまた迷わずに行けるか自信がない。あ、これじゃ三つになっちゃうか……。

「どっちにしてもやっぱり無理だよね」

明日はハローワークに行ってこの先のことを相談してみよう。ひょっとしたらなにか道は残されているのかもしれない。入社した日に倒産してしまうような悲劇に見舞われた若い子を、ほったらかしにするような社会でないことを祈りたい。

とりあえず明日になるのを待って考えるしかない。

……明日か。

むくっと起き上がると、腕時計の時間を確認する。まだハローワークは開いているはず……。疲れたついでにこのまま行ってしまおうか?

一日でも早く動いたほうがいい気がする。

そんなことを考えているとカバンが震えだした。バイブ機能にしていたスマホが鳴っているらしい。

画面には、

「げ……」

光る【お母さん】の文字。しばらく眺めていると留守電になったらしい。

が。

ブーンブーン、と小刻みに再び震えだす。こんな時間に何度もかけてくるなんて、もう倒産のことを知っているとか?

「まさかね」

つぶやきながら耳に当てた。

「もしもし」

『詩織!』

すごい音量が襲ってきて思わずスマホを遠ざけた。

「聞こえてるよ。どうしたの?」

『どうしたの、じゃないわよ。詩織の詩織のっ、かい、会社がっ』

……悪い予感は見事的中したらしい。相当混乱しているお母さんはオロオロした様子で動き回っているんだろうな。

小さくため息をついてから、

「倒産しちゃった」

思っていた以上に明るい声を出していた。そうすればお母さんの心配を少しはやわらげることができるかもしれない、と思ったから。

『なにのん気なこと言ってんのよ! どうするのよ、倒産なんて大変なことよ』

子供のころはよくこんな金切声をあげていたっけ。最近は怒られることは少なくなり、ターゲットはお父さんになっていたけれど。

親元を離れてたった数日なのに、なんだかなつかしささえ感じてしまう。

「なんで知ってるの?」

『テレビはさっきからそのニュースばかりよ! ああ、もうどうすればいいのよ』