「昔はね、『卵屋さんになる』って言い張るくらい、お母さんの作った卵料理が大好物だったの。オムレツもそうだけど、プリンとか茶碗蒸しとかも好きだったんだ。実際、卵屋さんが卵料理を作るわけじゃないのにね」


バカにされるかと思ったら、雄也はきょとんとした顔をしていた。

そして、自然と笑っている自分に気づいた。

これが彼の言う自然治癒力なのかもしれない。

雄也は、「そうか」と言うと、なぜかため息をついた。


「どうしたの?」


やっぱりあきれているのか、と心配になって尋ねると軽く首を振った。


「いや、昔同じことを言っていた人がいたな、って思い出してた」


「卵屋さんになりたい人がいたの?」


「まあな」


いくら私でもわかる。

そう言った雄也の表情は、なつかしそうではなく悲しそうだった。

さっき見せた色を落とした目をまたしている。