「気づいたらここに迷いこんでいてベンチに座っていたの。社会人になった日に無職になるなんて、ほんとバカみたいだよね。笑っちゃう」

だけど雄也はゆっくりと首を振るから。

そうして、

「笑わないさ、誰も」

そんなことを言うから。

ツンとした痛みが鼻に生まれ、気づくと視界がぐにゃっとゆがんでいた。


止まれ、涙。


泣いたってなにも変わらないのに。


それなのに。


「たくさん歩いたんだな。新しい靴が汚れてしまったな」


雄也の言葉に、一気に涙があふれた。

大きなしずくはすぐにスーツに落ちて濃い染みを広げた。


「泣いたほうがいい。自分の悲しみに蓋はしないほうがいい」


「でも、でもっ」

ボタボタとこぼれる涙は悲しみを体から逃がしてゆくよう。

息を激しくしながら、やっと気づいたんだ。



今日、私はずっと泣きたかったのだ、と。


泣いても泣いても枯れない涙。

まるで心が叫んでいるみたい。

声を出して泣き続ける私を、雄也は黙って見ていた。