「会社がつぶれていたのか?」

少し目を開いた雄也にうなずいてから、一生忘れられないであろう今朝の出来事を思い出した。

会社の入口の自動ドアに群がる人々は、そこに貼られた紙に書かれた文字を食い入るように見ていた。

小さく見えた『倒産』の文字の意味を理解するまでにずいぶんかかったような気がする。


そこからはおぼろげな記憶。


誰かが私に文字がずらりと並んだ書類を渡している映像。

隣で泣き崩れる知らない人の声。

断片的な記憶はつながらず宙に浮かんでいる。

夢のように思えたそれは紛れもなく現実に起きたことだった。

だけど、涙は出なかった。


泣いてもなにも変わらない。


泣いても悲しみは去ってくれない。


「それで倒産したことを知ったんだな」