「放っておいても解決できることなら、人はそんな顔をしない。偶然出逢ったのもなにかの縁だと思えるなら、温かい料理を食べて悩みをここに置いていけばいい」


悩みを置いてゆく?

まるで忘れ物みたいに?

突拍子もない提案だ、ってわかっている。

それでも不思議と、彼の言葉はすとん、と心に落ちてくる。


「人に話すことで解放される苦しみもあるかもしれない」


そう言う雄也の顔が、なぜか悲しく見えた。

ひょっとしたら彼も悲しい思いを抱えている、と感じるのは私の思い過ごしだろうか?


「私……」


気づけば、自分の意思で口を開いていた。


「自分の人生はうまくいくものだ、って思っていたの。奈良に引っ越してきたときも、昨日までは希望しか感じていなかった」


「今日は入社当日だったんだろう?」


雄也の言葉に驚いてぽかん、としてしまう。

なんでわかるの?

疑問が顔に浮かんでいたのだろう。雄也は、「わかるさ」と肩をすくめる。