彼が余裕な表情に見えて、なんだかうらやましささえ感じる。

昨日までの私もこんなふうだったんだろうな。

今日起きる悲劇も知らずに親友と長電話までしていた。

『明日の初出社が不安』なんて言っていた友達に『すぐに慣れるよ』と、先輩さながらのアドバイスまでしていた。

自分だって未経験だったくせして。

それは、もう二度と戻れない無邪気さ。

現実がこんなにも厳しいことを、社会人になった今日知るなんて……。


「柏木雄也」


「え?」


見ると、その顔にはやさしい笑みが浮かんでいた。


「俺の名前は、柏木雄也。ここの店主だ」


「……はい」


突然始まった自己紹介にとまどいながらうなずく。


「朝ごはんは一日のはじまりだろう?」


「はぁ」


「最初にお腹に入れるものが温かい食べ物ならば、人の心は元気になれる」