「だからおいしいんですね」

止まらない箸が、卵の甘味に口元を緩めさせた。


「ちょっとは元気が出たみたいだな」


男性の声に顔を上げると、すぐそばに相手の顔があって思わずのけぞってしまった。

カウンターの幅がせまいせいか、近くにいるみたいに感じる。


「さっきはひどい顔してたからな」


「顔?」


赤くなりそうな頬を押さえながら聞くと、大きくうなずく男性。


「なにかあったんだろ?」


「えっ。なんでですか?」


人のことなど関心がなさそうな顔をしているくせに、さっきの絆創膏のことといい、実は観察力の優れた人なのかもしれない。


「さっき、泣きそうな顔をしていたから」


その言い方が悲しそうに感じられてハッと顔を見るけれど、さっきと変わりない表情がそこにあった。