「まぁ、失礼ね。たまに店に来るとこれだもの」

そう言いながらも笑顔の和豆は、お茶をすすると、

「それにしても詩織ちゃんも災難だったわね」

と、あわれむような目をしてきた。

「自分でもまだ信じられない。だって、すごく友季子さんはリアルだったし」

彼女の話す言葉、やさしい笑顔、それが現実には存在していなかったなんて思いもしなかった。

「まぁ、それでも成仏させたんだし詩織ちゃんお手柄よ」

和豆がパチパチと手をたたくのを、

「本業の出番はなかったけどな」

雄也が茶化す。

「まぁ、ほんっと失礼しちゃうわ」

ぷい、と横を向いた和豆だったけれど、

「でも」

と、私を見た。

「なに?」

「詩織ちゃんの啖呵を切るところが見られただけでもめっけものだったけどね」

ぶっと、吹き出す和豆。

あの日、怒って店を出ていったことをまだ言うなんて。

「あれは違うって。友季子さんの影響だってば」

「どうでしょうねぇ」

「そうだもん」

ふたりで言い合っていると、突然雄也が「ゴホン」と、咳ばらいをした。

見ると、なぜかそっぽを向いたまま、

「話がある」

と、真剣な口調で言った。

「どうしたのよ、改まっちゃって」

ふふん、と笑う和豆を無視して雄也はまっすぐに私を見た。

一瞬息ができなくなるほど真剣な顔だった。

少しの間を置いて、雄也は口を開く。

「穂香は俺の妹だ」

「……うん」

「そして今は行方不明。全部、俺のせいだ」

言葉ではわからないけれど、苦しそうな表情をしている。こんな顔初めて見た。

「雄也の?」

「ああ。俺があいつを追い詰めたからだ」

もう、和豆は黙って雄也を眺めている。

「そうなんだ」

うまく言葉が出なくてうなずいた私に、雄也は肩の力を抜いた。

「以上」

「え? それだけ?」

「他に話はない」

いつものように洗い物を始める雄也に、

「それはないでしょ。そんなの話したことにならない」

と、文句を言うが素知らぬ顔。

まったく、素直じゃないんだから。

「まぁいいじゃないの。雄ちゃんにとっては大きな一歩よ」

ぱちん、と手を打った和豆が窓の外を指さす。

「ほら、梅雨ももう終わり。夏が来るわよ」

納得できないまま窓ガラス越しの空を見た。

青い空に雲がひとつ泳いでいる。