想いを残したままずっとあの場所で待っていた友季子さんの永い片思いは、想像を絶するほど辛かっただろう。

「会いたかった。ひと目だけでも、もう一度彼に会いたかった。だけど、彼が幸せならば……受け入れます」

手をおろすと、そこには泣きながらも、笑みが友季子さんの顔に浮かんでいた。

笑わなくってもいいのに。恋は人を強くもするけれど、時には弱くもするものなの?

私にはわからない。

こんな悲しい恋なんて、わかりたくなんかない。

「じゃあ……そろそろ行きますね」

つぶやくように彼女の口から言葉が落ちた、そのときだった。

扉が引かれる音がしたかと思うと、雨の音が店の中に飛びこんできた。

そして、入口に立っているのは─小野さんだった。

「……小野さん」

私よりも先に友季子さんがかすれる声で言った。

息を切らしている小野さんは、私の顔を見ると安心した表情になった。

「ああ、やはりここでしたか。いろんな人に聞いて……」

そこまで言ってから苦しそうにあえいだ。きっと走ってきたのだろう。

友季子さんはイスに座ったまま口をぽかんと開けて固まっている。

ようやく姿勢を正した小野さんは、律儀に頭を下げて私の前に来たかと思うと、友季子さんのほうを見た。

見えているの?

そう思ったのは気のせいで、彼はカウンターに置かれている手のつけられていない茶粥を見て目を見開いた。

「友季子が……来ていたのか?」

視線を私に戻すと、すがるように私の肩をつかんだ。

「やっぱり友季子、友季子がいるのか?」

ああ、小野さんに友季子さんは見えていないんだ。

すぐそばにいるのに、キョロキョロと周りを見渡している。

「小野さん、さっきはすみませんでした」

私の謝罪も聞かずに小野さんは、

「友季子は生きているのか?」

そう尋ねた。

「あの……」

「生きて……いるのか?」

言葉を弱めた小野さんは、そんなはずはないってわかっている。

荒く吐く息は、やがて鼻水をすする音を伴う。

つかんでいた手は肩からするりと落ち、膝を折ってあえいだ。

「……やっぱり、違うのか」

「さっきは勘違いしてしまいすみません」

「いや……」

「ひどいこと言ってしまいました」

幸せに暮らしている小野さんに、事情も知らないのに責めるようなことを言った。情けなくて悲しくて、私はまた泣いていた。