信じられない半面、なんでまだ涙があふれるんだろう。心のどこかで、これが現実だと受け入れようとしているみたい。

「詩織さん、聞いてください」

背筋を伸ばして私を見た友季子さん。なんで店の中にいるのに、髪が濡れているの?

まるでさっきまで雨の中にいたみたい。ずっと、雨の中にいるみたいに。

「私、小野さんから手紙をもらって猿沢池に向かいました。すごい雨の日でした」

「それって……」

「雨が景色を隠していました。道を渡ろうとしたのですが、カサが風で飛ばされそうになってしまい、よろめいてしまったんです」

「やめて……」

「気づいたときには遅かった……。すぐそばで耳が割れるほどのクラクションが爆発したように鳴ったんです」

「やめてください。やめて、やめて!」

立ち上がろうとした私の肩をつかんだのは、カウンター越しの雄也だった。

「お前まで現実から目を逸らすな」

「だって!」

「友季子はきちんと今、現実を見ようとしている。ちゃんと成仏させてやれ」

成仏……。

その言葉に、体の力が抜けて元の席に落ちるように座っていた。

隣を見ると、やさしい友季子さんがほほ笑んでいる。

「本当に……友季子さんは幽霊なの?」

「前からそう言ってるだろうが」

雄也があきれたように言ってくる言葉を聞き逃さない。

「前から? そんなことひと言も言ってなかったじゃん」

知ってるなら言ってくれればよかったのに。

抗議すると、雄也は苦笑した。

「だからお前は人の話を聞かないやつだ、って言われるんだ。和豆が『霊の友季子さん』って何度も呼んでいただろ」

「へ……『霊の』?」

そう言えばそんなこと言っていたような気がする。てっきり、『例の友季子さん』だと思っていた。

と言うことは、みんな最初からわかっていたってこと?

それでも納得できなくて。

「私、霊感ないのに……」

つぶやく私に雄也は腕を組んだ。

「たぶん和豆のところに行かせるようになったからだろうな。ああいう霊感の強いやつには誰だって影響を受けるから」

「詩織さんに迷惑かけちゃいましたね」

友季子さんが頭を下げたので、呆然とした頭のまま「いえ……」と首を横に振った。