最後は言葉にならない。

ふたりは黙って私を見ている。遠くで雷の音が聞こえた。

どれくらい黙っていたのか、食器の重なる音が聞こえ顔を上げると、友季子さんの前に小さなお鍋が置かれるところだった。

友季子さんはさっきからじっと動かない。私の行動に怒っているのだろう。

そうだよね、勝手なことばかりして怒られるのも当然……。

左端の席に座っているナムと目が合った。ゆっくりと一度だけまばたきをしたナムが、まるで励ましてくれているように思えたのは私の勘違い?

「友季子」

静かに雄也が口にした。

「はい」

「もう、いいんじゃないか?」

「……そうですね」

ふう、とため息を逃がした友季子さんはお鍋の蓋を開けた。

白いお鍋に深い茶色のお米がポコポコとまだ泡を生んでいる。

友季子さんが目を閉じて、湯気を吸いこむのを眺めていた。

私は、と言えば鼻水とたたかっている真っ最中。なんとかそれを収めると、

「『もう、いい』って、なにが?」

と、尋ねた。

ぼやけた視界で雄也の表情が緩んだ。

「そのままだよ。もう、終わりでいいんじゃないか、ってこと」

「え? ダメだよ。それじゃあ、解決にならない」

反対表明をする私を、友季子さんが見た。

「解決、してるんですよ」

「……え?」

「最初から解決していたんです」

またため息をつくから、湯気が辺りに逃げてゆく。

どういうことかわからずにふたりの顔を交互に眺める私に、雄也は言った。

「友季子は、もうこの世には生きていないんだよ」

モウ、コノヨニハ、イキテ、イナイ

頭が真っ白になる、ってこういうことを言うんだろう。

ぽかん、と友季子さんを見る。考える。それから、私は声に出して笑った。

「なに言ってるの。こんなときにやめてよ」

「冷静に考えれば誰だってわかることだ」

「わからない。なにそれ」

まだ笑っている私とは反対に、友季子さんは瞳を伏せる。

「お前は考えずに突進してゆくからな。友季子はもうこの世に生きてはいないんだよ」

「は?」

言っている意味がわかるのと理解できるのは別問題。

だって、隣で座っている友季子さんは……。

「ごめんなさい」

そう言った友季子さんが悲しみ笑いをする。

もうこんな冗談やめてほしいのに、なんで?