見つけたところでなにを言えばいいのかわからない。第一、友季子さんにも拒否されているわけだし。

それにしても冷静に考えると、友季子さんも小野さんが結婚していることを知っているのだと気づく。

そうでなきゃ電話でもなんでもできたはずだし。

つまり、ふたりはわかっていて今の関係を続けていたのだ。

だとしたら私は確実に余計なおせっかいをした、ってことだ……。

降り出した雨に追われるように、結局、気づけばお店の前にいる私。

「なんだかな……」

さっきひどい捨てゼリフを吐いた手前、入りにくい。だけど、話ができる場所はここしかないし……。

「失礼します」

そう言いながら戸を横に引くと、自分の目を疑う光景がそこにはあった。

厨房の中で腕を組んでいる雄也はいつものこと。

違和感はカウンターに長い髪の女性が座っていたのだ。私の声に気づいて振りかえった女性、それは……。

「友季子さん……」

彼女は悲し気にほほ笑むと、

「詩織さんごめんなさい」

と、言葉にした。その言いかたにすぐに胸が苦しくなった。謝るのは私のほう……。

自分勝手に小野さんに会いに行って、余計に糸を絡めてしまったのだから。糸が切れたなら私のせいでしかない。

迷いながらもゆっくり店内に進むと、隣に腰を落とした。

「どうして?」

声が震えてしまう。拒否されていたと思っていたけれど、ここに来てくれたうれしさ。知りたくなかったことを知ってしまった悲しさ。入り混じる感情に自分がわからなくなる。

友季子さんは小さく笑った。それは、はかなくて切なくて、悲しい笑み。

「あんなこと言ってごめんなさい。詩織さんは私のことを考えてくれていたのに」

透き通るような声にただ首を横に振った。

ああ、ダメだ。涙がまたこぼれそうになる。最近の私は、本当に泣き虫になってしまったよう。

「私こそ、ごめんなさい。ごめん……なさい」

「また余計なことしてきた、って顔だな」

雄也の声に何度もうなずいた。

「余計なこと、ですか?」

首をかしげる友季子さんにすべてを話そう。そうでなきゃ、とてもひとりでなんて抱えきれないから。

「小野さん……に、会ってきた……の」

途切れる声で、だけど真実を伝えると、息を呑む音が聞こえた。

「小野さんに?」

「ごめんなさい。私、どうしても友季子さんに幸せに─」