「あら。京都に住んでいるのね」

なんておどけている。

明るい表情で言う和豆に少し救われた気持ちになるのを感じた。

そのとき、ふとある考えが頭に浮かんだ。

すぐに打ち消す。

だけど、一度思いついたことはなかなか離れていってくれない。

私が京都に行く……。

友季子さんが行きたくないなら、私が動けば……。

「ダメダメ」

手紙をカバンに押しこめる。

こういうところが、雄也の言う『余計なこと』であるのは疑いようがない。でもこのまま部屋に戻ってもスッキリしないだろう、とも思う。

そんな私を見て和豆が笑い声をあげた。

「あなたって、ほんと感情が行動に出るのねぇ」

「なによ」

「怒らないでよ。うらやましいんだから」

目を丸くしてから和豆は「ふん」と、鼻から息を吐いた。

「京都っていえばね、地下水が綺麗で和菓子がおいしいのよね」

「それとこれに、どういう関係が……」

言いかけてから気づく。

ひょっとして……。口をつぐんだ私に彼は言う。

「あたし出不精だから、なかなか食べられないのよね。ああ、たまにはおいしい和菓子が食べたいわぁ」

ぽん、と頭に手をやってから「じゃあね」去ってゆく和豆。

その姿を見ながら考えた。

余計なことをするついでに、とことんやってみてはどうだろうか。

深呼吸をしてならまちを見渡した。

私らしく行動するならば、答えはひとつしかない。

それに、和豆のお願いもあるし。

─京都に行く。

それは素晴らしい考えのように思えた。



駅員さんに聞いたところによると近鉄奈良駅から京都に行くには、西大寺という駅で乗り換えるらしい。

大仏で有名な東大寺と関係があるのかはわからないけれど、言われた通りに西大寺で京都行きの電車に乗った。

小野さんが住んでいる城陽市は久津川駅でおりるとのこと。

濃い赤色の電車に揺られ、空いている車内から外の景色をぼんやりと眺めた。雨にけむる町の景色はあっという間に畑や山ばかりに変わってゆく。

いくつか駅を過ぎてゆくうちにあっという間に久津川駅へついた。

ここから京都駅まではまだまだ駅数はあるみたい。

てことは、城陽市は京都府でも奈良に近い場所らしい。

「だったら早く会いに来ればいいのに」

ちっとも遠距離じゃないどころか、むしろ近い部類に入るだろう。