……わかっている。雄也にしたのは八つ当たりでしかないことも。
まだこの町に来てそんなに経っていないのに、溶けこめているなんて思っていた自分が浅はかだったんだよね。
濡れた髪を拭こうとカバンからハンカチを出そうとしたとき、
「あ……」
指先が触れた感触に青ざめる。ちょこんと入っているのは、友季子さんにかえすはずだった小野さんからの手紙だ。
やっと友季子さんに会えたのに渡しそびれてしまった。
茶色の便箋の裏に書かれた【小野 准】の文字を眺める。
「なにしてるのよ、小野さん……」
彼さえここに来てくれれば全部解決するのに。
京都と奈良の距離はよくわからないけれど、そんな遠い距離ではないはずなのに。
「あら、それが小野さんからの手紙ってやつ?」
突然耳元でした声に、
「ひゃ!」
と声を出してから見ると、いつの間にか横に和豆が立って手元を覗きこんでいた。
「和豆さんっ」
「詩織ちゃんってば、足が速いのねぇ」
顔色ひとつ変えない和豆に、さっき自分が啖呵を切ってきたことを思い出し、うつむいてしまう。そんな私に、彼は言う。
「言葉は想いを表さないこともあるわ」
顔を上げて、じとっと和豆を見た。
「暗い顔しないでよ。こっちまで気持ちが沈んじゃうじゃない」
「だって……」
ぶすっとした私に、和豆は「まったく」とぼやいた。
「その友季子って女性は知らないけれど、きっと本心じゃないことを言ったのだと思うわよ」
「じゃあどうして?」
ショックから立ち直れない私に、和豆は「心配してくれているのよ」と言うので、ますます意味がわからなくなる。
黙っている私に、和豆が軽く息を吐いた。
「もし、自分のことで一緒に悩んで、苦しんでくれている友達がいたらどう思う? うれしいけれど、申し訳なく思うんじゃないかしら。だから、あえて強い言葉で感謝を述べたのよ」
「……そうなの?」
友季子さんが私を心配してくれて? あんなに苦しいのに、私のことを考えてくれての言葉だったの?
「前も言ったでしょう? 詩織ちゃんの心のままにすればいいのよ」
「でも」
「意地をはったり怒ったりするのもいいわよ。でも、あなたがしたいことをすればいいの。あなたのしたいことがあたしたちの意見と違うのなら、応援するわよ」
和豆は私の手から封筒を引ったくると、裏面を見て、
まだこの町に来てそんなに経っていないのに、溶けこめているなんて思っていた自分が浅はかだったんだよね。
濡れた髪を拭こうとカバンからハンカチを出そうとしたとき、
「あ……」
指先が触れた感触に青ざめる。ちょこんと入っているのは、友季子さんにかえすはずだった小野さんからの手紙だ。
やっと友季子さんに会えたのに渡しそびれてしまった。
茶色の便箋の裏に書かれた【小野 准】の文字を眺める。
「なにしてるのよ、小野さん……」
彼さえここに来てくれれば全部解決するのに。
京都と奈良の距離はよくわからないけれど、そんな遠い距離ではないはずなのに。
「あら、それが小野さんからの手紙ってやつ?」
突然耳元でした声に、
「ひゃ!」
と声を出してから見ると、いつの間にか横に和豆が立って手元を覗きこんでいた。
「和豆さんっ」
「詩織ちゃんってば、足が速いのねぇ」
顔色ひとつ変えない和豆に、さっき自分が啖呵を切ってきたことを思い出し、うつむいてしまう。そんな私に、彼は言う。
「言葉は想いを表さないこともあるわ」
顔を上げて、じとっと和豆を見た。
「暗い顔しないでよ。こっちまで気持ちが沈んじゃうじゃない」
「だって……」
ぶすっとした私に、和豆は「まったく」とぼやいた。
「その友季子って女性は知らないけれど、きっと本心じゃないことを言ったのだと思うわよ」
「じゃあどうして?」
ショックから立ち直れない私に、和豆は「心配してくれているのよ」と言うので、ますます意味がわからなくなる。
黙っている私に、和豆が軽く息を吐いた。
「もし、自分のことで一緒に悩んで、苦しんでくれている友達がいたらどう思う? うれしいけれど、申し訳なく思うんじゃないかしら。だから、あえて強い言葉で感謝を述べたのよ」
「……そうなの?」
友季子さんが私を心配してくれて? あんなに苦しいのに、私のことを考えてくれての言葉だったの?
「前も言ったでしょう? 詩織ちゃんの心のままにすればいいのよ」
「でも」
「意地をはったり怒ったりするのもいいわよ。でも、あなたがしたいことをすればいいの。あなたのしたいことがあたしたちの意見と違うのなら、応援するわよ」
和豆は私の手から封筒を引ったくると、裏面を見て、