「気になりますよ。だって、待っているだけじゃなにも解決しないじゃないですか。どんな形になるにしろ、自分から行動しないと」

私の言葉に友季子さんは一瞬笑ったように見えた。けれど、それは間違いだったとすぐにわかる。

唇を震わせたかと思うと、両目から涙があふれた。ゆがんだ顔を背けた友季子さんは横顔で泣いていた。

「詩織さんがうらやましいです」

「……友季子さん」

「だって、思いを行動に移せるんですから」

冷たい雨がカサをたたいている。こぼれる水の向こうにいる友季子さんが涙をこらえて私を見た。

「でも、移せない人もいるんです。待っているだけしかできない人も」

「じゃあこのまま待つの? 来るまでずっと?」

敬語も忘れて尋ねる私に、友季子さんは「はい」とうなずく。

言葉に詰まった。それじゃあ運命を受け入れているだけにしか聞こえない。うまくいくかもしれないのに、あとちょっとで幸せになれるかもしれないのにどうして?

「そんなの……私は納得できません」

そう言った私を見た友季子さんはもうほほ笑んでいた。

「でしょうね。自分でも情けないです」

「だったら」

「詩織さん。これ以上私にかまわないでください」

その言葉ははっきりと、そして強く耳に届いた。穏やかだった表情はそこにはなく、まるで怒ったような顔になっている。

「友季子さん?」

「迷惑です。もう、私に話しかけないでください」

言い捨てるように否定を言葉にすると、友季子さんは足早に去っていった。

振り向くこともできない。

『迷惑です』

その言葉に呆然としているのをどこか遠くで眺めているよう。

ザ—、という雨の音が世界を包んでいるようだった。



店の鍵は開いていた。

扉を開けて中に入ると、まるで営業しているかのように作務衣を着た雄也が厨房に立っている。

カウンターには、和豆が座っていた。

休みの日に現れた私にふたりは驚くこともなく、平然としていた。

和豆だけは、

「あらあらここはブラック企業かしら」

と、からかってきたけれど聞こえなかったことにする。

ズカズカと奥に進んでから私は言った。

「迷惑だ、って言われた」

一瞬私を見た雄也が、

「そうか」

と、答えた。

「どうして? 友季子さんを心配しているだけなのに、なんでそんなこと言われなくちゃいけないの?」