もう何年も泣いていないけれど、情けなさで涙が出そうになる。

とにかく駅まで戻らなきゃ。

でも、どこをどう歩いてきたのかわからない。

また寝ようとしているのか、目を閉じた猫を一瞥してから歩き出した私の背中に、

「待て」

そう声がかかった。

犬じゃないんですけど、と言いたかったけれど今は我慢。

説教されてもおかしくない状況なのだから。

走り出したいけれど足が痛くてできないし、これはもう絶体絶命としか言いようがない。

覚悟して振り向いた私はそのときになって、ようやく声の主をしっかり見ることができた。

高い身長に切れ長の目、そしてなぜか茶色の着物を着ていた。

年齢は私より少し上に見えるけれど、着物のせいで予想しづらい。

短めの黒髪が春の風に泳いでいる。