同じようにおどけてみせた。少し元気になったみたいで安心した。

戸を引くと、外はまだ雨が続いていた。

「あの、お代は……」

「雄也、あっ……店主が『いらない』と申しておりますので大丈夫です。あとこれもどうぞ」

カサ立てに置いてあった赤いカサを手渡した。

ためらう友季子さんの手にそれを持たせると、

「なにからなにまで、本当にありがとうございます」

赤色のカサを雨に打たせながら店をあとにした。

来たときよりもしっかりとした歩きかたに安心する。

無事に彼と再会できて、幸せな・新しい一日・になりますように。



「幸せになりたいわよねぇ」

ため息とともにゲップをした和豆がぼやいた。

「汚いなぁ」

敬語も忘れて言う私。

「いいじゃない、人間なら誰でもするものよ」

距離が近くなってきたのか、憎まれ口をお互いにたたき合うことも増えてきている。

今日は幾分早く手葉院に来られたので、いつもよりゆっくり和豆と話をしている。雨は降っておらず、だけど重厚感のある雲が空を支配していた。

「和豆さんの幸せ、ってなんです?」

梅シロップは今日はサイダー割り。少し早い夏を予告するかのようにグラスの中で泡が踊っている。

「そりゃあなた、やっぱり雄ちゃんと結ばれることに決まってるじゃないの」

「やめてよね」

うん、もう敬語はやめた。

リアルに気持ち悪い図が頭に浮かびそうになり、急いでそれを消去した。

「なんでよ。脈があるって思える理由はあるのよ。あの猫の名前」

「ナムのこと?」

「あの子、うちの境内に捨てられてたのよ。それを雄ちゃんが飼ってくれたの」

へぇ……。ナムは捨て猫だったのか。それを拾ってあげるなんて、雄也もなかなかやるじゃん。

「詩織ちゃん、考えてみて。あの子の名前はなあに?」

「ナム、でしょ?」

「南無阿弥陀仏のナムよ。それってまるであたしを意識している、って告白してるみたいじゃないの」

キャーと黄色い悲鳴を上げて照れている和豆を見て、背筋が凍る思いがした。

……これは、ホラーだ。

「想像を膨らませすぎだってば」

「なによ。夢を見るくらい、いいじゃないの。詩織ちゃんの幸せはなんなの?」

「へ?」

考えてみたこともなかった。私の幸せってなんだろう。

「悩んでいる人の・新しい一日・を応援することかな……」