「電話はしてみたんですか?」

首を振る友季子さん。

「メールとかは?」

「メール?」

きょとんとした顔をしてから、やがて友季子さんはため息で答えた。

そのとき、奥から雄也が出てくると、

「もういいだろ、そろそろ帰れ」

なんて言うものだから目を丸くしてしまう。言いかえそうと口を開くより前に雄也は、カウンター越しに友季子さんの前に立つ。

「なにかの事情で遅れているか、来られなくなったんだろ」

その言葉に友季子さんはゆっくりと顔を上げた。

「本当にそうでしょうか?」

「知らん。だが、考えこむと悪い方向にばかり考えちまうだろう」

それはなんとなくわかるような気がした。友季子さんも思い当たる節があるのか、

「たしかにそうかもしれませんね」

とうなずいた。

「私、昔から悪いほうへ悪いほうへと考えてしまうんです」

「ふふ。友季子さんてそれほどまでに小野さんのことが好きなのですね」

一途に相手を思い、そして想像で悲しんでいる彼女がなんだかいじらしく思えた。

「ありがとうございます。なんだかスッキリしました」

静かに席を立った友季子さんの表情はさっきよりも明るく、悲しみは見当たらなかった。

「本当に召し上がらないですか?」

「すみません。なんだか胸がいっぱいで。でも、うれしかった。茶粥は彼の大好物なんです」

「小野さんの?」

「ええ。たまに会える彼は、いつのころからか私が作る茶粥が大好物になってくれて。だから私、茶粥だけはうまく作れる自信があるんですよ」

友季子さんの目じりがさがり、やさしそうに潤んでいる。

「じゃあ、会えたらまた作ってあげないとですね」

「ええ。それがすごく楽しみです」

「素敵な恋人同士なんですね。小野さんってどんな人なんだろう」

「そうですね、ひと言で表すなら『無類の甘い物好き』ってところですね」

ふふ、と笑った友季子さんが私に言うので、

「私も甘い物好きですよ」

と言ったけれど、彼女は首を横に振った。

「小野さんの場合は、普通以上に甘党なんです。だって、彼は茶粥にも砂糖を入れるくらいなんですよ」

「げ、茶粥に砂糖?」

ありえない、という表情で答えると友季子さんも、

「でしょう? 茶粥だけじゃなくて緑茶や麦茶にも入れるんです。病気になってしまわないか心配」