素人同然の私を拾ってくれた雄也。ともにお客さんの・新しい一日・を応援したいという気持ちはある。もしも雄也自身も・新しい一日・を踏み出せずに苦しんでいるのならば、私がその力になりたいって思う。
でもどうすればいいの?
「雄ちゃんをラクにしてあげてほしい。詩織ちゃんやったらできる気がするねん」
「気のせいですよ」
そう答えるのが精いっぱいだった。ああ、またいつものもどかしさが襲ってくる感覚。
私の言葉に園子ちゃんは肩をすくめた。
「ま、気にせんといて。一応、伝えたかっただけやから」
陽気に去ってゆく園子ちゃんを見て、野菜の棚に意識を戻した。
それでもまだ、胸に引っかかっている感情が集中を邪魔している。
それは、雄也の悲しみのように思えた。
スーパーを出て猿沢池まで戻ったころには、雨は小降りになっていた。
閉店まであと三十分を切っている。なんとか時間内で終われるだろう。
池のほとりでまた足を止めたのは、さっき見た女性がまだ同じ場所で立っているのが見えたから。
あれからいくらか時間は経ったはずなのに、まるで絵画のように立ち尽くしていて動いていないように思えた。
後ろを通り過ぎてから振り向いてみると、やはり悲しい横顔がそこにあった。
雄也の『余計なことはするなよ』の声が聞こえたような気がしたけれど、私は女性の横へと足を進めていた。
「あの……」
ためらいがちに声をかけた私に、初めて気づいたようにゆっくりと女性は顔を向けてくる。私と同い年くらいだろうか、メイクも雨で流れてしまっているだろう彼女は、それでもとても美しい顔をしていた。
「どうかしましたか?」
声をかけると、少しだけ目を開いた女性は、
「え?」
気弱に答えた。びしょ濡れの髪から雨のしずくが途切れなくこぼれていた。
「雨が……」
なんて言っていいものやら、空を指さした私に女性は、「ああ……」とつぶやいて見上げた。ゆるやかな空気を持っている人だった。
「雨ですね」
まるでこの降り続く雨に気づかなかったような言いかたに、私はカサを差し出した。
「これ、良かったら使ってください」
「え、でも……」
「大丈夫です。すぐそこのお店なので走って行けばすぐつきますから」
ダッシュすればこの小雨ならそう濡れないだろう。
でもどうすればいいの?
「雄ちゃんをラクにしてあげてほしい。詩織ちゃんやったらできる気がするねん」
「気のせいですよ」
そう答えるのが精いっぱいだった。ああ、またいつものもどかしさが襲ってくる感覚。
私の言葉に園子ちゃんは肩をすくめた。
「ま、気にせんといて。一応、伝えたかっただけやから」
陽気に去ってゆく園子ちゃんを見て、野菜の棚に意識を戻した。
それでもまだ、胸に引っかかっている感情が集中を邪魔している。
それは、雄也の悲しみのように思えた。
スーパーを出て猿沢池まで戻ったころには、雨は小降りになっていた。
閉店まであと三十分を切っている。なんとか時間内で終われるだろう。
池のほとりでまた足を止めたのは、さっき見た女性がまだ同じ場所で立っているのが見えたから。
あれからいくらか時間は経ったはずなのに、まるで絵画のように立ち尽くしていて動いていないように思えた。
後ろを通り過ぎてから振り向いてみると、やはり悲しい横顔がそこにあった。
雄也の『余計なことはするなよ』の声が聞こえたような気がしたけれど、私は女性の横へと足を進めていた。
「あの……」
ためらいがちに声をかけた私に、初めて気づいたようにゆっくりと女性は顔を向けてくる。私と同い年くらいだろうか、メイクも雨で流れてしまっているだろう彼女は、それでもとても美しい顔をしていた。
「どうかしましたか?」
声をかけると、少しだけ目を開いた女性は、
「え?」
気弱に答えた。びしょ濡れの髪から雨のしずくが途切れなくこぼれていた。
「雨が……」
なんて言っていいものやら、空を指さした私に女性は、「ああ……」とつぶやいて見上げた。ゆるやかな空気を持っている人だった。
「雨ですね」
まるでこの降り続く雨に気づかなかったような言いかたに、私はカサを差し出した。
「これ、良かったら使ってください」
「え、でも……」
「大丈夫です。すぐそこのお店なので走って行けばすぐつきますから」
ダッシュすればこの小雨ならそう濡れないだろう。