「あ……」

ベンチの横にある引き戸の前に男性があきれた顔で立っていた。

ハッと我に返った瞬間に私は立ち上がっていた。

さっきまで根っこが生えていたみたいに重かったのにウソみたい。

見ると、もう太った猫は大きなあくびをして毛づくろいを始めていた。


そうだよね、猫がしゃべるわけないのにほんとおかしくなっているみたい。


それより猫と話をしているなんて、危ない人だと思われているかもしれない。

いや、きっと思われている。


「すみません。あの、ごめんなさい。……申し訳ありません」


思いつくままに謝罪の言葉を言いながら頭を下げた。

勝手に人の家のベンチに腰かけていたのだから、怒られて当然だ。

ミスをしたときの謝り方の練習が、こんな場面で必要になるなんて。