そういえば、郵便局でもこうだった。
凪は手紙の思いを読んだ時、短い間だが気を失ったんだ。

凪の頭がわたしの肩に完全にもたれかかっていた。
少しだけ苦しげな顔をしていたけれど、呼吸をしていたし、前回のことがあったからしばらく待とうと、わたしは凪の体が落ちないように両手で必死に凪を抱きかかえる。

ふと、こんなところを誰かに見られたら、完全に誤解されるなと思った。
これじゃ神社で密会して熱烈に抱き合っているカップルにしか見えない。

でも誰も通らない。とりあえずそっと凪の背中に手を回し、なんとかスマホのライトを消す。

暗闇で意識のない凪を抱えてじっとしていたら、ふと怖くなった。

『二度と凪に手紙の思いを読ませたりしない』とおじいちゃんと約束していたのに、破ってしまった。このまま凪の目が覚めなかったらどうしよう。
思いを読んだ後、おじいちゃんのことを忘れてしまっていたらどうしよう。おじいちゃんは怒って、わたしと凪をもう会わせてくれなくなるかもしれない。

わたしってばそういうことを考えないで、自分の思いと勢いに流されて、凪に手紙の思いを読んでもらってしまった。
この後、どんな展開がありえるか、もっと検討しておくべきだったのに。

最近思いもかけない出来事が立て続けに起きて、なんだかわたしたちの周りがざわついている気がする。
この町で、光と緑に囲まれて穏やかに過ごす日々に十分満たされているのに、なにかが変わってしまいそうな、嫌な胸騒ぎがする。


わたしは変化なんか求めてない。

刺激も必要ない。
ただ凪との日々を重ねていくことだけを求めているのに……。

大切なものを失ってしまいそうな不安に駆られて、凪を抱きしめる手に力を込めた。