凪の言葉に、わたしは少しずつ気持ちが傾いていくのががわかった。

確かに、なにかを忘れたとしても、それで終わりじゃない。いくらでもまたこれから一緒の思い出を作っていくことはできる。

そう思うと、なぜか少し気持ちが軽くなった気がした。
そして、この前久しぶりに凪がぶっちーに触れた時のことを思い出した。

あの時だって、最初はおずおずと手を出していた凪が、しばらく撫でているうちに、わたしが教えなくても以前と同じ撫で方をしていた。
あの時、記憶はなくなっても体で覚えていることがあるんだ!って感激したことを覚えている。

一度は心から大切に思ったものなら、きっとまた同じように大切にできるはずだ。
おばあちゃんは不運な出来事が重なってしまった。
事故にあって、やり直す機会を持てないまま永遠の別れが来てしまったことは本当に悲しいことだけれど、でも大抵はやり直すチャンスがあるはず。

凪の特殊な能力に怯えているだけのわたしだったけれど、そう思えたら再び気持ちが揺れ始めた。

お兄ちゃんたちの居場所がわかるかもしれないあの手紙、凪がなにかを読み取ってくれたら、わたしたち家族が変われるかもしれない。

そんなわたしを察したのだろう、凪が念押しするように言った。

「だから、大丈夫。くるみは心配しなくていいから。僕に手紙を読ませて」

「凪……」

凪は大きく、力強くわたしに向かってうなずいた。