「はっきりさせたほうがいいよ。くるみだって、真実がわかれば、悩まなくて済むじゃんか」
「そうだけど……」

「うじうじ悩んでるだけなんて、くるみらしくないよ。くるみはさ、心から笑ってる時が一番いいんだから」

凪に説得されているうちに、あの手紙に込められた思いを凪に読んでもらいたいという欲求が膨らんできていた。

でもそれはやっちゃいけないことだ。わたしは自分の気持ちにブレーキをかけるために、冷静に凪に伝えた。

「凪の気持ちはうれしいよ。でも、やっぱり無理だよ。凪のことが心配だから、手紙の思いを読んでほしくないの。おじいちゃんも同じ気持ちだと思う」

ふてくされた顔をしている凪に言い聞かせるように、わたしはひと言ひと言、話しかけた。

「凪のその手紙の思いを読む能力は、特別なものだよ。でも、凪はその能力を使うことで、大切なものをなくしてる」

わたしの言葉に、凪はうんざりした顔でため息をついた。

「ああ……。その話は聞いた。大事な記憶をなくしてるって」

「おじいちゃんと話したの?」

「前、ゆきさんの手紙を届けるために、一緒に東京に行った日……。あの日に起きたことを話してたら、おじいちゃんが二度と手紙の思いを読んじゃいけないって。昔のことも聞いた。一度おじいちゃんのことを忘れたことがあるって。僕はそんなことあったかなって感じなんだけど」

凪の言葉に、わたしはためらいがちにたずねた。

「凪、おばあちゃんのことは? 覚えてないでしょう?」

すると凪は気まずい顔になった。

「……覚えてない。仏壇の写真の人だよね。お葬式に出たのは覚えてるんだけど、一緒に暮らしてた記憶はない」

「わたしは覚えてるよ。おばあちゃんのこと」

すると、凪は驚いた顔になった。

「本当に?」

「本当だよ。だって、凪のお家に遊びに行ったら、必ずおばあちゃんがいておやつ出してくれたもん。すごく優しかったんだよ」

黙り込んだ凪を見て、わたしはハッとした。

ついおばあちゃんを忘れている凪を責める口調になってしまった。
でも、凪が悪いわけじゃないんだ。凪を責めてもしょうがない。