「じいちゃんがお母さんに怒ってるのはわかってるんだ。もっともだとも思う。勝手に出ていって、突然帰ってきたと思ったら、子供連れてて。しかも、その子供を預けたまま、必ず迎えに来るって言ったくせに全然音信不通で」

凪にとってはつらい現実だろうと思うのに、凪は淡々と話した。

「でも、そこにどんな事情とか思いがあるかはわからないだろ? もちろん、単にだらしなくて、こんなことになってる可能性もあるけど、でももしかしたらお母さんなりの事情があるかもしれない」

「凪……」

今までため込んでいた感情を吐き出すように、凪は一気にまくし立てた。

「僕が手紙の思いを読むことで、本当のことがわかるかもしれないんだ。
きさんだってさ、元旦那さんの気持ちをちゃんとわかって、やっと吹っ切れるって言ってたじゃん。真実をわかったほうがいいことって、あると思うんだ」

正直に言うと、わたしだって、あの手紙を書いた玲美さんの思いを凪に読んでほしい。
そうすれば、お兄ちゃんの今の状態や、わたしたち家族のことをどう思っているか、ちゃんとわかるかもしれない。

ずっとお兄ちゃんのことを気にかけて悩んできたお母さんのことを思うと、余計に真実を知りたくなる。でも、真実が幸せをもたらすとは限らないってことも事実だ。

「でもね、凪。うちのお父さんも本当のことを知ってがっかりするのが嫌だって言ってた。本当に家族を嫌ってたり、ただ家族を利用しようとしてるだけだってわかったら、かなり悲しいよ」

凪は黙り込んだ。

「わたし、お母さんにそんな思いさせたくないな」

お父さんがあんなふうに頑なになっている理由もきっとそれだ。
またお母さんが傷つく可能性があるってことに怯えているに違いない。

「もし翔くんがそんなんだとしたら、くるみと僕だけの秘密にしておけばいい。そしたら、おばさんもおじさんも傷つけることはないだろ?」

凪は真剣な顔でわたしを見つめた。


わたしは思わず目をそらす。
気持ちが揺れていた。