仕事の手伝いをよくしているのも、お世話になっているからということだけではなく、おじいちゃんのそばに居たいからなのだということをわたしはよく知っていた。

そんな凪がお母さん以外のことで、おじいちゃんとケンカするなんて……。

「なにがあったの?」

「んー?」

「ちゃんと話して」

わたしの真剣な顔に、「くるみ、怖っ」と言いながら、凪がぼそぼそと話しだした。

「じいちゃんが、くるみがなんか元気なかったなって心配してたからさ」

「うん」

「翔くんからの手紙のことを話したんだよ」

わたしは「ああ……」とため息をついた。

お兄ちゃんのお嫁さんの手紙は、うちだけではなくよそのお家にまで波乱を巻き起こしているらしい。

「お兄ちゃんに新しい家族ができてるのに、どこにいるかわかんないなんてかわいそうだよねって話してさ」

「うん」

「俺が手紙の思いを読んであげれば、なんとか居場所見つけてあげられると思うんだけどなって言ったの」

それを聞いて、『あっちゃー』と思った。

「そしたら、瞬間的に顔が変わっちゃって。
『二度とそんなこと考えるな』ってすごい剣幕で」

ふてくされたような顔で凪は言った。

「そりゃそうだよ」

わたしの言葉に、凪は納得がいかない顔をした。

「なんでダメなんだよ。だってさ、俺が翔くんの奥さんの思いを読むことができたら、居場所だけじゃなくて、今の翔くんの様子だってわかるかもしれないのに」

「いいから、もうそういうこと考えないで」

「どうして!」

凪は苛立った様子で叫んだ。
周囲の人が驚いた顔でこちらを振り向く。

わたしもいつも穏やかな凪には似合わないその様子に驚いていた。

「会う手段があるのに、どうしてそれを使おうとしないんだよ」

その声には、やり切れなさや悲しさ、悔しさ……いろいろな感情が満ちているように思えた。

「それにじいちゃんは、『自分の意思でこの町を捨てた人間に構う必要はない』って……」

その言葉にハッとした。おじいちゃんがそう言った時に頭に浮かんでいたのは、きっとうちのお兄ちゃんのことじゃない。

「お母さんのことを言ったんだと思う」

凪は悲しげだった。