「親になにも言わずに結婚して、子供までいるのに、ヒモみたいな生活をしている翔を見なきゃいけないのか」

「そんなこと、まだわからないじゃない!」

最初は冷静に、感情を抑えていたふたりの言い合いは、どんどん激しさを増していった。

わたしはもうご飯を口にする気にもなれなくて、箸を置いてしまった。

「それに、ここまでじゃけんにされて、それでもこっちが折れて会いに行ったあげく追い返されたらどうする。そんなみじめな思いをしてまで、あいつと家族でいたいとは思わない」

お父さんはそう言うと、話はここまでだと言わんばかりに食事を食べ始めた。
わたしが作ったピクルスも味わうことなく、他の料理と一緒にただ咀(そ)嚼(しゃく)されて飲み込まれていく。

「臆病なだけじゃない」

怒りをこらえている様子のお母さんが、低い声を出した。

その言葉に、お父さんがお母さんをにらみつける。

「は?」

「父親として息子の現実が見るのが怖いだけでしょ。現実を受け止めて、助けてあげるのも親の役目じゃないの。早めに手を打って、やり直す手助けをするのも親の責任じゃない」

お母さんがどんどん激昂(げきこう)し、お父さんの頬も怒りで赤くなった。

「ふたりともいい加減にして!」

わたしは見ていられなくて、思わず立ち上がった。

ふたりが驚いてわたしを見上げる。

「もういいよ。ちょっと出かけてくる」

「どこに行くの?」

「いいじゃん、わたしのことなんてどうでもいいでしょ」

「なんでそんな。誰もそんなこと言ってないじゃない」

お母さんがあきれた顔をしている。

とことん嫌になって、わたしは思わず叫んだ。

「ふたりともいない人のことばっかり考えて、バカみたい! 目の前にいる人のこと、ちゃんと見てよ!」

その瞬間、お父さんとお母さんがハッとした顔になった。

わたしは「ちょっと頭冷やしてくる! すぐ帰るから!」と言い残すと、早足で部屋を出た。

「くるみ、どこ行くの!」と言うお母さんの声が聞こえたけれど、構わずに玄関のドアをバタン!と閉めた。