「くるみ、顔」

突然、凪に声をかけられて、ハッと我に返った。

「なに?」

「口がへの字になってて、おばさんに見える」

「ちょっと、やめてよ!」

あわてて口角を上げてみせたら、凪がおかしそうに笑った。

「ほんと、そういうこと言うのやめてくれる?」

「だって、一気に老けた顔になってたからさ。修正しないと、ずっとあの顔になっちゃったらやばいじゃん」

わたしはキョロキョロと鏡を探したけれど、作業場にそんなものあるわけがない。
「そんなにひどかった?」

「ひどかった」と、凪がわたしの顔を思いっきり縦に挟んだ。
おかげでわたしの唇がタコのようなる。

「くるみは、笑顔でいればかわいく見えるんだから、とりあえず笑っとけ」

真正面から真剣に見つめられて、わたしは一瞬固まった。

「もう! 凪ってば、からかわないでよ!」

すぐに我に返って凪の手を振り払うと、バシバシと凪の体を叩(たた)く。

「痛い痛い」

笑いながら逃げる凪を、「いつも適当なこと言って!」と追いかけた。

そして、思う。
凪の言葉、凪の瞳、凪とのやりとり、凪との時間。すべてがわたしのエネルギーになるなあ、と。

「ふたりとも、いい加減にしなさい」

おじいちゃんに子供のようにたしなめられながら、わたしは心の底から笑顔になれる自分を感じていた。