翌日、わたしは朝の家事を終えると、凪の家に向かった。

おじいちゃんは、作業場で朝収穫したキュウリを選別しているところだった。

「くるみちゃん、もうお母さんは大丈夫なのかい?」

おじいちゃんが心配そうに聞いてくる。

「ご心配おかけしましたー。大丈夫だとは思うんだけどね、なんかあると困るから、もう少しいたわってあげようと思ってる」

「くるみちゃんが来てくれると助かるからつい甘えちゃって、お母さんには悪いことしたなあと思ってるんだよ」

「えー、おじいちゃんがそんなこと思わなくていいんだよ! わたしがしっかりお母さんの手伝いするから、大丈夫」

すると、作業場の奥から凪がニコニコしながら出てきた。

「賑やかになったと思ったら、くるみだ」

「凪とふたりだと、静かなもんだからな」

おじいちゃんもニコニコしている。

「えー、それわたしがうるさいってこと?」

わたしが不満げに言うと、「違う違う」と凪は手を振って笑った。

「くるみが来ると、この暗ーい作業場ですらカラフルになるってことだよ」

その言葉に、落ち込んでいた気持ちが一気に跳ね上がった。

おじいちゃんも「うまいこと言うな、凪」と笑っている。

「もう、調子いいこと言って! そしたら、今日もひとがんばりしようかな」

やっぱり凪のそばにいると、元気が出る。

凪たちと一緒に夢中になって作業していると、時間はあっという間に過ぎていった。

農家の手伝いをしていて一番いいなと思うのは、無心になれるところ。
嫌なことがあって落ち込んでいても、どんなに悩んでいても、一度無になってリセットできる。

それでも時々気をゆるめると、赤ちゃんをあやすお兄ちゃんの写真や、お母さんの泣き顔、目を閉じているお父さんの顔がフラッシュバックして、そのたびに悲しくなる。

これからしばらくの間、また夕食の時間がギスギスしたものになるんだろうなと思うと、逃げ出したいような気持ちになった。今までだってお父さんとお母さんの間で気を使ってきたのに、それ以上に張りつめた空気の中にいなくてはいけないなんて気が滅入ってしょうがない。