その夜、お父さんとお母さんに手紙と写真を見せた。

差出人である『西村玲美』さんは、お兄ちゃんの奥さんだった。

お兄ちゃんはいつの間にか結婚していたのだ。
そして、お兄ちゃんと一緒に写っている赤ちゃんは、ふたりの娘・華(はな)ちゃんだった。

お父さんもお母さんも写真を見て驚愕し、手紙を読んで黙り込んでしまった。

【突然のお手紙で、驚かせてしまったことと思います。
わたしは昨年夏に、翔さんと籍を入れました玲美と申します。
ご挨拶もできずに申し訳ありません。

今年五月に長女を出産しました。
わたしは結婚したことも、子供が生まれたことも、ご両親に報告するべきだとずっと考えていたのですが、翔さんはそれを許してくれません。

昔のことで、わだかまりがあるということは聞いていますが、翔さんのことを心配していらっしゃるだろうご両親になにも連絡できずにいることを不甲斐(ふがい)なく感じております。

特に娘が生まれてからは、子を持つ親として、きちんとご報告・ご連絡したいと考えていました。
なので、翔さんには内緒でこの手紙を書いています。

お義父さん、お義母さん、翔さんは元気です。これからも華の成長をお知らせさせてください】

テーブルの上に置かれた手紙と写真を見ながら、わたしはまた、お兄ちゃんに対して怒りのようなものを感じていた。

お父さんの言い方はよくなかったかもしれない。
でも、結婚したことや孫が生まれたことまで教えてもらえないほど、ひどいことだったかな。

お兄ちゃんがいなくなってから、お兄ちゃんの話題が登ることはほとんどない。
でもそれは、“いない”という事実の重さをみんな受け止めきれなくて、それぞれ苦しんでいるからこそ、軽々しく口にできないでいるだけなのだ。