茜色の記憶

「なになになに」

わたしは薄気味悪さを感じて、思わず大きな声が出てしまった。

凪が「どうした?」とのぞき込んでくる。

「なんか、謎の手紙来たー‼」

「え?」

「これって若い女だよね、絶対に! なんなの? 意味深すぎるー」

騒いでいたら、凪が「見せて」と手を出してきたので、わたしはあわてて手紙を隠した。

「なに」

「凪にこの手紙の思いを読まれたら困るからいい」

「なんで」

また凪の大切な記憶がなにかなくなったりしたら困る。
でも、それを言葉にするのはなぜか憚(はばか)られた。

「もしお父さんが浮気してたりしたら、嫌じゃん」

「浮気? おじさんが?」

凪が吹き出した。

「笑わないでよ! あ、お父さんがそんなモテるわけないと思ってる?」

「違う違う! あの真面目なおじさんが浮気なんかするわけないじゃんってこと」

確かに。浮気するようなお父さんだったら、きっとお兄ちゃんともここまでこじれてない。

「とにかく凪は触らないでね。我が家の秘密が隠されてるかもしれないんだから」

そう言うと、わたしはじっと手紙を見た。

「『西村家の皆様』って書いてある」

「そうだね」

「この人も西村だ。……まさか、隠し子?」

「だから、おじさんに限ってそんなことないって」

わたしは「そうだよね」とうなずく。

「西村家の皆様へってことは、わたし宛てでもあるって考えていいよね」

凪は首をかしげながらもうなずいた。

「うん……、まあ、いいんじゃないかな」

わたしと凪はじーっと手紙を見つめた。

読みたい。でも、勝手に読んでいいのかな。

ためらう気持ちもあった。
不安もないわけではない。

でも、逆に我が家にとって爆弾になるような手紙だったら、わたしが処分してしまえばいい。

「よし」

わたしは覚悟を決めると、はさみを持ってきて封を開けた。

中には、手紙の他に、写真が数枚入っていた。

「……え」

写真を見て、わたしは身動きができなくなった。

「くるみ? 大丈夫?」

わたしの様子に、やはり写真をのぞき込んだ凪も「え?」と声を上げた。

そこには、まだ小さい赤ちゃんをあやす、お兄ちゃんの姿が映っていた。

その手紙は、やっぱりある意味、爆弾だった。