夕方、家に帰ると、なんだかいつもと雰囲気が違うことに気づいた。いつもなら、パートから戻ってきたお母さんが、夕飯の支度をしているせわしない空気が漂っているのに、今日はシーンと静まり帰っている。台所の電気もついていない。

まだ帰っていないのかなと不思議に思って居間をのぞくと、お母さんがソファに横になっていた。

「お母さん?」

のぞき込むと、青白い顔をして寝ていたお母さんがうっすらと目を開けた。

「どうしたの? 具合悪い?」

急に心配になった。お母さんはいつもちゃきちゃき動き回っている人で、こんなふうにぐったりしているところをあまり見たことがなかったから。

「くるみ……。ごめんね、お母さんちょっとめまいがして……」

「いいよ、いいよ、寝てなよ」

「ご飯の用意、まだなんだけど……」

見ると、スーパーの袋がテーブルの上に置いたままになっていた。帰ってきてすぐ、ソファに横になってしまったようだ。

「大丈夫、どうにでもなるって。気にしないで寝てなよ」

わたしの言葉に、お母さんは小さくうなずくと、また目を閉じて寝てしまった。

病院に連れていかなくて大丈夫かな、寝てれば治るかな。

急に心細い気持ちになった。

このところ凪のところにばっかり行っていて家にいる時間が少なかったし、あまり会話をしていなかったから、お母さんが最近どんな様子か全然気にもしていなかった。

とにかくお母さんが買ってきていた食材を冷蔵庫にしまおうと、わたしはスーパーの袋を開けた。野菜やお肉を入れながら、生姜焼きとサラダとお味噌汁くらいなら作れる気がした。

それくらいのメニューならスマホで調べればレシピもすぐにわかるだろうし、いつもお昼ご飯づくりを凪の家で手伝っているから、なんとかなるかもしれない。たまには夕飯を作って、お母さんをびっくりさせてあげよう。

「よし」

再び冷蔵庫のドアを開けて、一度しまった食材を取り出した。