手持ち無沙汰になったガキ大将は、もじもじとあたりを見渡し、机を運びだす。

わたしはテーブルを拭きながら、凪を見て思った。

この子、なんかすごい。大人しいだけの男の子じゃない。
わたしは心の中で驚愕していた。
わたしがどれほどガミガミ言っても変えられなかったことを、一瞬で変えてしまった。

それ以来、凪はクラスでも一目置かれるようになった。
ガキ大将も凪の言うことはちゃんと聞いたし、クラスの意見が割れると最終的に凪に視線が集まる。

凪はいつのまにか、クラスの精神的なリーダーになっていた。

そうして凪はわたしにとっても、特別な男の子になった。

もともと、凪は東京育ちの凪はここら辺で育った男の子とは違う雰囲気をまとっていた。

勝手な先入観かもしれないけど。

『東京からきた』という響きが、そう思わせていたのかもしれないけれど。

でも、乱暴な言葉づかいもしないし、他の男子がふざけても一緒になって騒いだりしない。
穏やかでのんびりしていて、みんながはしゃいでいるところから少し距離を置いて笑顔で見ているような子だった。
同じ年の男の子がふざけている姿がバカみたいに思えてうんざりしていたわたしには、そんな凪は好ましかった。

「凪ってさ、大人しいよね」

帰り道にそう言うと、凪は困った顔をした。

「そうかなあ」

「他の男子みたいに、ふざけたくなったりしないの?」

「うーん……」

少し考え込んで、凪は答えた。

「僕の名前ね、凪でしょ」

「うん」

「凪って言うのは、風のない穏やかな海のことなんだって」

「へー」とわたしは感心して言った。
誰かの名前の由来を聞いたのは、その時が初めてだった。

「うちのお母さんの人生はげきどうだから、息子には穏やかな平和な人生を送って欲しくて、凪って名前にしたんだって」

「げきどう?」

「そう。よくわかんないけど」