「多分、妻は凪のことで頭がいっぱいだったんだろう。関係をどう修復するか、これからどう接していくのか、必死だったんだと思う」

おじいちゃんはつらそうだった。おばあちゃんの事故がどうしても凪と無関係だと思えなくて、それでも凪のことは大切で、大きな葛藤を今もまだ消化しきれずにいるのだろう。

おばあちゃんが亡くなったと聞いた時は、わたしもとてもショックだった。
お葬式からしばらくして、凪が久し振りに登校した時にも、あまり亡くなったおばあちゃんの話はしないように気を遣っていた。
おばあちゃんのことも事故のことも凪があまり思い出さないように、みんな触れないようにしていたのだ。

だから、凪がおばあちゃんの記憶をなくしたということに気づかなかった。

その時、わたしはハッとした。

そういえばあの時、お葬式でも凪のお母さんの姿を見た覚えがない。

「凪のお母さんは? 連絡したんでしょう?」

おじいちゃんの顔が苦しげに歪んだ。

「もちろんすぐに連絡した。しかし、ずっと留守電でな。葬式が終わっても捕まらなかった。後からわかったんだが、男と海外に旅行に行っていたらしい」

「え?」

「凪の読んだ通りだったんだよ。満帆は男に夢中になっていたんだ」

わたしは思わず深いため息をついた。

あまりに理不尽で、あまりに納得がいかなくて……わたしですらこんなに怒りを感じているのに、おじいちゃんはどれほどやりきれなかっただろう。

その時、おじいちゃんは怒りに任せて、満帆さんにもう親子の縁を切ると伝えた。凪にも二度と会いに来るな、と。

満帆さんは黙ったまま、電話を切った。

そしておじいちゃんは、満帆さんから手紙が来たとしても、二度と凪に見せないことに決めたのだった。