おじいちゃんはそこまで語ると、お父さんが出した湯飲みのお茶をぐっと飲み干した。

ぽつぽつと語るおじいちゃんの言葉が、誰もいない夜の郵便局に沈み込んでいくようだった。

わたしは呆然(ぼうぜん)として聞いていた。

小学校の頃、もうわたしは凪を知っている。
毎日一緒に通学していたけれど、そんなことが起きていたなんて知らなかった。

おじいちゃんは深くため息をつくと再び語りだした。

「その日、凪は帰ってきたけれど、いろいろなことが変わってしまった。凪は妻に対してよそよそしい態度を崩さなかった。満帆のことを悪く言ったことで、敵だと思ったのかもしれない。そして……その翌日、妻は交通事故にあったんだ」

わたしは息を呑んだ。

「見ていた人の話では、妻はなにか考え事をしていたようで、車に気づかなかったらしい。右折してきた大型のトラックに巻き込まれて……」

それ以上は言葉にならなかった。おじいちゃんはなにかをこらえるように、目を閉じた。

重い沈黙があたりを満たした。

そうだったんだ……。
確かに、おばあちゃんのお葬式にもお父さんやお母さんと出かけた。交通事故だと聞いていた。
でも、その裏でこんな悲しい出来事が起きていたなんて……。